岩下俊三/ジャーナリスト/ 戦争体験のない政治家よ、 理屈だけの“観念の海に”溺れるな!! /07/10/15

戦争体験のない政治家よ、
理屈だけの“観念の海に”溺れるな!!

 

       岩下俊三(フリージャーナリスト

 

 「“赤城の絆創膏”のように容易に剥がれない“もうひとつの対立軸”」

 

 国会の廊下は暗くて狭い。そんな気持ち悪いけど天井だけは妙に高い廊下で、ある時、社民党の辻本清美議員の「私、いつまでも“夢見る乙女”ではあらへんで」という明るい声が響いていた。記者の意識的扇動にカチンときて、また自説を繰り返しているに過ぎないなーと思い、その場では気にも止めていなかったけれど、テレビの深夜番組でも同様なことを云っていたことがどうも耳に残って離れない。

 もちろん彼女自身のことではない、9条のリアリズムのことである。たぶん対極的立場に立つ石破 茂防衛相であっても「日米関係がこのままでいいとは思っていない」と耳打ちする。たぶん政治的にいえば集団的自衛権行使の問題であろうけれども、僕にはそう大上段から議論する問題ではなくて、それぞれの理念は違えども、前の世代の“リアリティのなさ”にたいする若い世代の「いらだち」に似た感情の発露ではないかとも僕には感じられた。

 そして今話題の、雑誌「世界」11月号の「小沢論文」―「今こそ国際安全保障の原則確立を」の登場である。これは前号の「世界」に国連本部政務官・川端清隆氏が「テロ特措法と安保理決議―国連からの視点」で小沢発言の問題点を指摘したことにたいする小沢一郎氏の返答である。

 端的にいえば国連の承認さえあれば、ISAFつまり地上での“血を流すかもしれない”活動に参加することも辞さずという考え方である。もちろん、テロ特措法でゆれている政局をにらんだ上での、いかにも彼らしい、捨て身の“断固たる”姿勢の表明であるといえばそれまでだが、実は辻本も石破も小沢も、暗に今までタブーとされてきた対米(従属?)関係に政治家(共産党議員を除いて)としてはじめてメスを入れたといえなくもない。少なくとも僕にはそう思えてならない。

 ほんとの“青二才”か、それとも裏読みとしての政局がらみの発言かは別として、それぞれが、まったく立場の違う、まだなまなましい皇国史観に行き着く浅薄な“歴史観”で騒がせた安倍前首相が残していったもの、しかも今でもなお“若い危険な思想”を引きずっているような気がしてならない。

 その点でいうと、どうやら「世代間戦争」は意外と根深く、赤城元農相の絆創膏のように、時が経てば自然に剥がれる類のものではなさそうだ。ちなみに田中角栄の秘蔵っ子・小沢一郎(65歳)だって戦争を知らない世代という意味ではまだ“若い”のだ。

 

「結局、血を流すのは“無辜の民”なのだ」

 

 その小沢一郎氏がまだ自民党幹事長の時代から、長い間取材の仕事上で“肉薄”してきた僕は、彼が世間でいわれているようなベテランでも、単なる権謀術数の悪魔でもないと思う。おそらくは、いつもいらいらしていて印象はよくないが、むしろ敵対はしていたが安倍前総理に近い「戦後レジューム」にたいする擬制への嫌悪みたいなものを隠し持っていたような気配がある。

 二世議員にとって、それは匕首だ。仕事を通して両者に接してきた僕だから、あえて大胆にいわせてもらうなら、その匕首はどうも“親殺し”用の甘えた、しかし理論先行型リアリズムで、鉞(マサカリ)のような鈍器のような狂気の“におい”がする。もちろん何の根拠もない、ただの“におい”にすぎないけれど。

 そういえば巷では、鉞を使ったそのような事件が実際おきているようだ。彼らにその類型をみたというのではない。むしろあくまで血を流すことや自立のための“核”保有など、馬鹿げた発想だけはして欲しくないといっているのだ。

 私は、ここで、賛辞の意味合いでの狂気をあげつらっているのであって、けっして酸鼻としての狂気を論じているのではない。戦争に擬似リアリズムなんていらない! という警告をしているのだ。それはもっと若い世代の前原誠司くんにも感じる。

 それは昔、僕がまだうんと若かったとき、東京大学504教室で対峙した、まじかで見た三島由紀夫氏と同じ“におい”がしたというだけの、他愛もない話でしかない。でも実際に“戦争”を体験していない政治家に、理屈だけの“観念の海”に溺れないように、とくにテロ特措法の延長問題などを議論している今だからこそ、望むのである。

 もちろん左右を問わず、またそれを伝えるメディアにも苦言を呈しておきたい。突然ではあるが、友人の長井カメラマンの“かくも具体的な死”を悼む。合掌。

 

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