鈴木益邦/新聞OB九条の会幹事/紙面ウォッチング 「終戦記念日を読む 」非戦の誓い 若い世代へ 背を向けず流されず向き合う 09/08/20

 

 

 


 

「終戦記念日を読む 」

 

           非戦の誓い 若い世代へ 背を向けず流されず向き合う

         

 

          鈴木益邦/新聞OB九条の会幹事

 

 

 64回目の終戦記念日を迎えた。 平和への決意を固め、 将来につなげる日である。 戦後初の暑い熱い 「8月総選挙」 と重なった。 今、 平和のために何をすべきかを考える。 憲法9条を生かし平和外交を進める力を、 政治をどうつくるか、 主権者の行動の月である。

 

【いま語り継がねば】

 

  戦争の悲惨さを語り継ぐことが年を追って難しくなった。 風化させない――この思いが各紙社説にあふれていた。

 

  「あの戦争の記憶―世代を超え、 橋を架ける」 (朝日)、 「非戦貫き、 命のリレーを」 (東奥)、 「悲劇を繰り返さぬ決意を新たに」 (日経)、 「悲惨な体験を風化させるな」 (愛媛)、 「語り継ぎ語り合う夏に」 (高知)、 「若い世代に伝えたい」 (佐賀)、 「若者に記憶を引き継ぎたい」 (宮崎) と論陣を張った。

 

  そして 「体験を受け継いでいくために」 (西日本) は、 「言葉の持つ力を信じたい。 仮に体験者がいなくなり、 時代が変っても伝え続けます。 平和は守るものでなくつくるもの、」 と継承への取り組みをいくつか紹介した。

 

  「語り継ぐ重みは増した」 (中国) は 「政権交代選挙の陰に隠れているためか、 今年はどうも低調に思える。 ~多くの犠牲の末に生まれたのが武力による問題解決を禁じた憲法九条だ。 核武装論は、 憲法に触れる恐れがあるだけでなく、 現在の日米関係などから考えれば現実的でもない。 ~戦争がどれほど多くの人々を肉体的に、 精神的に苦しめるか。 その実感がないだけについ勇ましい論に耳を傾けてしまうのだろうか。 ~戦争を二度と繰り返さない。 当たり前だった国民の共通認識すら薄らいでいるのかもしれない。」 と警告した。

 

  各紙が 「戦争を語り継ぐ」 特集を組み、 戦争体験者の 「いま語らねば…」 「いま引き継がなければ…」 と多くの重い苦渋のほとばしりを伝えている。

 

【平和の声が力になる】

 

  「平和の道を踏み固めたい」 (北海道) は、 「悲惨な歴史を二度と繰り返してはならない。 同時に未来に目を向けたい」 と強調、 道内の惨禍を記録化すること、 被害と加害を忘れないことを指摘した。 「~なお残る戦争のわだかまりを乗り越え、 アジアの人々と協力関係を築きたい」。 それには 「人々の声が力になる。 ~憲法の平和理念は惨禍を招いた戦争の反省から生まれた。 その精神に立ち、 唯一の被爆国の国民として核廃絶や非戦のため、 世界に連帯を呼びかけるのは大きな意味がある。 各国の人々とともに、 平和への声を上げていきたい」 と決意を示した。

 

  「『不戦の誓い』の重みかみしめたい」 (南日本) は、 核武装論や先制攻撃論が高まった。 およそ実現不可能な主張だ。 核武装論は核拡散防止の (NPT) 体制からの脱退を意味し、 先制攻撃は九条が禁じる。 改憲を支持する国民も九条改正は慎重だ。 ~アジア外交に軸足をおき孤立を避けよ」 と警告した。

 

【九条を永遠に追求】

 

  「九条とビルマの竪琴」 (東京中日) は、 終戦を迎えても日本に帰らなかった未帰還兵士の華僑虐殺や人肉を食う飢餓、 『地獄の体験者は人間界に戻れない』と答えているかのような運命だと紹介。 またベトナム戦争で精神的にも肉体的にも正常を保てず治療通院と路上生活から18年後に回復したアメリカ元兵士がいたことを伝えた。 彼は『憲法9条との出会いが救いだった』『憲法9条は美しく奇跡だ』『六十年以上日本軍に殺された者がない。 世界の宝だ』と9条の伝道者になった。 『9条は日本人を戦争から守った。 今度はみなさんが9条を守る番だ。 失ったら二度と戻らない』と彼は言い残して他界した。 そして 「現実に困難があればこそ、 追求しなければ平和には永遠に届かない。 平和も一人ひとりのねばり強い努力です」 と呼びかけた。

 

  「変容する戦後の世相」 (岩手) は、 原爆の日に広島で 「核武装をせよ」 と喧伝した田母神元自衛隊幹部の非常識を批判。 オバマ発言で世界が核廃絶の機運が高まる中、 唯一の被爆国に核武装論が台頭したのは歴史観の未熟だ、 と指摘。

 

  「改めて被爆国日本の存在感と立ち位置を共通認識として確立しなければならない」 と強調した。

 

【選挙で示せ平和の意思】

 

  「安保論も正面から選挙で」 (山陽) は 「~外交・安保の分野は、 雇用や年金など身近な生活対策の陰に隠れがちだ。 政治が周囲の空気に流されている感は否めない。 どんな時でも本質的な平和構築論争を正面から交わすのが政治家の責務ではないか。」 という。

 

  「歴史の見方を問う夏に」 (信濃毎日) は、 中国との関係や加害責任をめぐる歴史認識などで政治主導の解決を強く指摘し、 民間交流の広がりの重要さ強調しつつ 「政治の果たす役割は大きい。 戦争の歴史を清算する意思と力を持つ政党や政治家を見極めたい」 と結んでいる。

 

  「平和を日本の思想に」 (新潟) は、 「~改めて不戦、 平和の誓いを国づくりの底に据え直したい。 国のかたちを問う今回の総選挙は好機といえる。 自民、 民主の憲法についての~腰の引けた姿勢では、 有権者の判断のしようがない。 外交 ・ 安保課題は国の進路、 国民の生死に直接かかわる。 究極の目的は戦争の回避である。 それは政治が担うべき最大の役割だ。 ~重要なのは戦争の記憶を国民の体に流れる 『平和の思想』 へと高めることだろう」 と指摘した。

 

  「平和を構想し実行に移せ」 (山陰中央)、 「平和への実行力が必要だ」 (福井)、 「平和の構想と実行力を」 (茨城) などが強調、 「沖縄を 『平和』 の要石に/被爆国の責務、 有限実行を」 (琉球) は 「64年の歳月を経てなお 『被害』 を与え続けている戦争は、 沖縄にとってまだ 『過去』 になっていない。 (村山談話の) 誓いが有言実行されたとき日本は真の 『終戦』 は終わる」 と結んだ。

 

【靖国、 解決策の論議を】

 

  読売は靖国問題だけに絞った。 「追悼をめぐる論議深めよ」 と題し、 軍部の無謀な戦争に触れるが、 侵略戦争の認識は触れない。 自民 ・ 麻生首相と民主 ・ 鳩山代表の家系の戦後史を述べた後、 靖国神社のA級戦犯合祀を重点に 「神社側が分祀に応じない限り、 選挙の結果がどうであれ、 国立追悼施設建立に向けての議論は、 勢いを増していくだろう。 ~追悼のあり方について改めて国民的な論議を深め、 結論を導き出す時期にきているのではないだろうか」 と指摘するにとどまった。

 

  「靖国問題の解決策模索を」 (デーリー東北) は、 「~歴史問題の検討と超党派で解決策を真剣に模索してほしい 『あの日』 はまだ終わっていない」 と指摘した。

 

【国家機能の戦前回帰】

 

  産経は 「終戦記念日  国家の心棒、 立て直す時  鎮魂の日に思う難局の打開」 といい、 「同じ日本丸にいる。 国家と国民の一体感を取り戻せ。 ~今もなお一国平和主義が消えない。 厳しさから目をそむけ安逸をむさぼる。 戦後体制をどうするか。 国家の機能を回復することが戦後日本の大きな課題であり宿題であり続ける。 政権交代が声高に叫ばれる~自民党をこらしめるという、 鬱憤晴らしで問題は片付かない。 心を一つに力を合わせ国家の心棒を立て直すことが現在と将来の危機を乗り切る原動力となる」 と主張した。

 

  北国は 「問い直しを迫られる 『国是』」 で非核三原則と武器輸出三原則の見直しで、 その論理と国家意思を築き直す必要」 を抽象的に説いた。

 

【「やや奇異」 というが】

 

  毎日は 「『打たれ強い日本』 に  低エネルギー化急げ」 と題し 「終戦記念日の主張としては、 やや奇異に映るかもしれない。」 しかし、 日本の平和と安全にとってぜひ必要なことだ。 ~衆院選が始まっており、 各党が政策論争を戦わせている。 間遠に思えるかもしれないが、 日本の安全保障の基礎を準備する問題として論じてほしい」 と奇をてらい、 本筋を避けたように思うのだが…。

 

【選挙の月にふさわしいか】

 

  終戦記念日は、 内外の戦争被害者への哀悼ととともに、 「平和への決意」 を固める日だ。 こういう立場から各紙の社論を読むと、 若い世代への継承を重視するもの、 戦争体験をリアルに語ろうと努力しているものなど大いに勇気付けられた。

 

  しかし、 現在の世相の変化、 世界の平和への流れの中で、 非戦の誓いを行動にしている多くの国民の運動の姿を紹介することや、 これとは反対の政府の姿勢、 行為などに対する批判は、 腰が引けて弱い、 と感じた。

 

  選挙の月にふさわしい平和構想の論議、 問題提起に、 具体性が乏しく、 抽象的で鋭さを欠いていた。 「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し」 (憲法前文) を原点に、 主権者の立場で力を示すときだ。

自民党の 対米追従の自主性のない 「外交・安保」 政策、 侵略戦争の歴史から学べない九条破壊の 「改憲論」。民主党の「憲法提言」(憲法九条2項に自衛軍明記)と海外派兵容認では、平和な明るい日本の展望も語れない。

 

  大胆な政治転換が求められる時だからこそ、 人類進歩に貢献するジャーナリズム性を磨き、 発揮してほしい。

 

  やはり憲法九条を守り、 世界に生かし発展させる進歩の道に確信を持ってほしい。

 

 

 

 

 

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2009

 

6〔憲法記念日の社説ウォッチング〕 「平和」と「生存権」幅広い論議目立つ09/05/06

7[原爆の日の社説を読んで]

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2008

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