無題ドキュメント

鈴木益邦/マスコミ九条の会・新聞OB九条の会会員/【08年元旦社説ウオッチング】 転換の年にふさわしいか/08/01/16

 

【08年元旦社説ウオッチング】

転換の年にふさわしいか
(マスコミ九条の会・新聞OB九条の会会員鈴木益邦)

 2008年幕開け。各紙の社説はどのように論じたか。大別すれば@地球環境Aねじれ国会と政局展望B信頼・責任の本物志向C地方の限界集落の再生と地域戦略などだ。

●地球温暖化
 今年は地球と社会のかかわりを深め考える国際惑星地球年。京都議定書実践(第一期約束期間)元年だ。温暖化の進行の深刻さを踏まえ、決意新たに踏み出す年にふさわしい論調、問題提起が目立った。
 北海道新聞は社説「瀬戸際の地球をどう守る(7月洞爺湖)サミットの年に考える」で「近代都市文明のおごりを指摘、温暖化が各国のエゴで国際紛争を生じる危険性」を指摘、連帯を強調した。神戸は「森は生きている」の連載社説を組み、森を通して、この星の未来、百年を見据えて動き出そうと呼びかけた。

 日経は「低炭素社会への道、国益と地球益を満たす制度設計を」急ぐことを提唱した。その中で、京都議定書の積極性を@差異ある責任の容認A国際共同行動への努力B低炭素社会の構築の3点にまとめ評価した。愛媛も「議定書の目標実現、決意新たに」を強調した。3日付で、朝日が「技術の底力で変身しよう 温暖化の決意」、沖縄「地球に対する責任が」、東京「あけまして京都議定書」と転機の年を決意した。そして再び日経は「日本企業は技術で世界のリード役を。温暖化が企業活動制約の成長阻害要因という認識を見直せ、温暖化防止技術の開発導入で競争力強化と成長に加速を」と経営者の意識転換を求めた。

 ここで大事なのは「ルールなき資本主義」の下で、儲け本位の企業任せにはできないこと。また戦争軍備の地球環境破壊と浪費(1戦闘機の8時間飛行は日本人1人一生のCO2排出に匹敵するという=田中優著『戦争って環境問題と関係ないと思っていた』から)は絶対に許せないことだ。
 ここでも、憲法の軍事依存でない平和的国際主義に立脚した人間の(人類の)基本権、生存権擁護と民主的実践を深く重視する観点が一層大事になっているし、広がろうとしている。憲法を生かす立場がいよいよ国際的にも重要になっていることを示している。

●ねじれ国会
 
朝日は「穏やかならぬ年明けだ。外から押しよせる脅威よりも前に中から崩れてしまわないか、不安にかられる」という。読売は「私たちの世界は構造的変動のただ中にあるようだ。唯一の超大国とされてきた米国の地位の揺らぎ、多極化世界のトレンドが次第にはっきりとしてきた」と時代を悲観的にとらえた。そこから「多極化世界に備えよ。外交力に必要な国内体制の再構築」を訴えた。相変わらず「日米同盟基軸は不変」「相応の負担をする覚悟」「国内安定のため福田首相は政治的強い意思を示せ。3分の2の再可決条項を使い、遅滞なく断行せよ」と激励した。  朝日は「日本沈没を防ぐため、ねじれ時代の国会運営についての解決策、@与野党とも受け狙いのバラ色の政策でなく、政権担当を前提に可能な限り現実的公約を競うことA敗者は潔く勝者に協力すること、ねじれ時代のルールの確立」を折衷的に説いた。
 今、激動の中で世界でも日本でも、厳しい権力批判と転換を求める「国民が主人公」のたしかな平和と進歩の民主的流れが着実に広がろうとしている。これを一層広げる立場にしっかりと立つことが求められる。いまや軍事的報復主義が孤立し、新自由主義の矛盾と悪弊、貧困と格差拡大社会への批判が広がっている。

  政治でも経済でも外交でも、地域社会の発展でも、この進歩の流れを発展させることだ。まさに憲法の立場、平和主義と基本的人権、主権在民の民主主義の原則に立脚した、偽装でない本物志向に他ならない。憲法を生かし発展させる立場からの論議と問題提起が求められる。メディアの論調が、展望を見失い、この原点を明確にしないまま、心情的な、小手先の政治と国会運営技術論、主権者国民を無視した古い政治屋の力学にとどまっている思考の貧困こそ問題だ。

●本物志向と地域重視
『偽、偽、偽、偽、偽 音を上げ閉じる歳の暮れ』とか、どこかの川柳が示すように、07年の回顧を踏まえて、「閉塞感」「混迷時代」から08年こそは、信頼、 責任、本物を国民の立場から自力で取り戻そうとする社説も目立った。

  毎日は「責任感を取り戻そう。まず政治から」「日本と世界の混迷を振り返るとそこには共通項として『責任の欠如』がある。公の感覚の喪失ともいえる」「米国のイラク戦争、サブプライムローン問題、地球環境問題でも」そして「無責任では日本も同断だ」と指摘、メディアにも触れた。
西日本は「今年は社会をつなぐ信頼の糸を紡ぎなおすところから始めなければならない」「蔓延する倫理感喪失症に『日本人の劣化』を嘆くが、むしろ人間関係の劣化を思う。格差、貧困層拡大の経済的貧困化とともに進行する人心の貧困化といえる」とし、行政や企業の努力と協力を訴えた。

  「つなぎ。結び。束ねる。昔ながらの地域社会の復活、そんなうねりの兆す世の中に転じよう」(神奈川)。「反貧困に希望が見える。広がるワーキングプア。東京に若者たちの小さな互助組織が生まれた。反貧困の助け合いネットワークだ。声を上げるところから始めよう」(東京中日)と呼びかけた。
 また「人は未来を信じてこそ。不安の連鎖を断ち切れ。〜偽物や口先でごまかす社会とはきっぱり決別しよう。本物の暮らし方を一緒に探し出そう」(新潟)と「地域の活性化」(岩手・沖縄)「地元の良さを探せ」(東奥・徳島・宮崎)。「成熟社会へ。地元から連帯の再構築がポイント」(信濃毎日)「地方の自力と自立」(中国・山陰中央・山陽・)など、大局的には目線を地域住民、国民本位に置く考えが盛り上がり、国家権力依存を排し、地域民主主義重視の大合唱と模索が展開されている。総選挙の年、転換の年へ、メディアの姿勢に注目したい。  

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