鈴木益邦/新聞OBの会幹事/ 紙面ウォッチング [原爆の日の社説を読んで]

核廃絶へ  世界の流れ加速 「核の傘」 から脱却へ 「9条生かす」 と一体で

09/08/11

 

紙面ウォッチング [原爆の日の社説を読んで]

 

 

 

核廃絶へ  世界の流れ加速

 

「核の傘」 から脱却へ 「9条生かす」 と一体で

 

 

  核兵器のない世界へ――広島 ・ 長崎から64年、 核兵器廃絶への国際的世論は大きく広がっています。

 

  唯一の核兵器を使用した国、 アメリカのオバマ大統領が 「核兵器廃絶」 を国定目標と公式に宣言、 具体的措置として、 新しい戦略核兵器削減交渉の開始、 包括的核実験禁止条約 (CTBT) の交渉開始、 兵器用核分裂物質の製造禁止条約の追求などを前向きに明確にしました。

 

  また、 これを受けて、 カーター元米大統領、 ゴルバチョフ元ソ連大統領、 ノーベル賞受賞者など世界の有識者100人による 「グローバルゼロ」 は、 2030年目標に4段階で核兵器廃絶を目指す行動計画表 (09.6.29) を発表し、 米 ・ ロの核軍縮担当首脳も合意しました。

 

  今年09年 「広島市長平和宣言」 は、 来年のNPT再検討会議で、 2020年までに、 全ての核兵器廃絶を目指す 「ヒロシマ ・ ナガサキ議定書」 (2020ビジョン) が採択されるように取り組むこと、 オバマ演説を支持し核兵器廃絶の責任を自覚する 『オバマジョリティー』 (核廃絶への世界の多数派) として力を合わせることを呼びかけました。 いまや世界の核兵器廃絶の流れは加速しつつあります。

 

  唯一の被爆国日本のメディア、 とくに新聞の論調がこれをどうとらえているか、 検証してみました。

 

●キーワードは 「核の傘」 ●

 

  こうした①時代の変化を 「好機」 として読み取り、 核兵器廃絶へ方向性を示す論調、 ②変化を読み取れず旧態依然とした冷戦時代の核抑止に固執する論調、 ③変化を中途半端に理解し現実の困難に引きずられ方向を曖昧にしか打ち出せない弱さもった論調も目立ちました。

 

  とくに、 その分かれのキーワードは、 「核抑止論 ・ 核の傘論」 からの脱却か、 否かをめぐって鮮明になりました。

 

  西日本新聞、 北海道新聞、 琉球新報、 中国新聞、 愛媛新聞、 熊本日日、 信濃毎日など大勢は①の立場に立つものでした。

 

  「核廃絶へ世界は動き出した。 革命的変化の兆し。 核廃絶論を実現可能な現実論として、 国際的うねりにする好機。 ~核兵器廃絶は 『究極』 の目標から 『緊急』 の目標にするときがきた」 (西日本)

 

●東北アジアの非核地帯化●

 

  「核廃絶は望ましい。 だが実現は無理だ―、 これまで支配的だった古い思考をオバマは覆した。 多くの国々が『核ゼロ』は成し遂げられるかもしれないと考え始めている。」 (北海道)

 

  「核廃絶  被爆国が先頭に。 オバマ氏支援を~まず『核先制不使用宣言』と『核の傘』からの脱却の道筋をつくるかである」 (中国)

 

  「核の傘を畳んで虹を見たい。 被爆国の政権トップは、 核の傘を畳む時期に来ていることを認識すべきだ」 (琉球)

 

  「 (日本の) 一部の政治家から、 核武装論や非核3原則の見直し論が浮上している。 米国の軍縮方針を懸念し、 いまだに『核の傘』が抑止力になるとの発想だ。 米国は核兵器が存在する間は抑止力を維持するとしている。 が、 この際日本は、 核廃絶を訴えながら核に頼るという矛盾を解消する姿勢を鮮明にし、 核依存の安全保障から脱却するときにきている。 『北東アジア地域の非核兵器地帯構想』は一つの答えになるはずだ」 (愛媛) 。

 

  「核廃絶へ、 日本こそリードを。 ~日本は米国の『核の傘』の下にある。 しかし、 核抑止論がもはや通用しなくなってきたことを米国自身が認め始めたのも事実だ。 日本の政府には『核の傘』からの脱却に向け、 新たな平和の枠組みをつくる戦略的外交を展開してもらいたい。 ~世界に核廃絶の風が吹き始めた今こそ、 その実現に働きかけるリーダーシップが求められる。 行動のときだ」 (熊日)

 

  「日本の役割は重い。 『核なき世界』というオバマ演説の精神の具体化に力を尽くすべきだ。 手始めは大統領をはじめ世界の指導者を広島長崎に招き、 原爆被害の実態を見てもらったらどうか。 『核の傘』については、 国民の合意もなく米国の核に自国の安全を委ね続けていいのか、 国民的論議を始めるべきだ」 (信濃毎日) など、 するどく論陣を張っています。

 

  また朝日は 「『非核の傘』を広げるとき。 核抑止を続けた方が世界は安定するとの考えが核兵器国や同盟国で根強い。 どうすべきか。 核のない世界に向けて動くことこそ、 新たな安全保障戦略の基本ではないか。 沢山の政策の積み重ねがいる。 ここでは『非核の傘』を広げることを求めたい。 先ずは非核の国に核攻撃をしない保証、 非核地帯条約の活用、 核兵器国の核先制不使用の宣言などで『非核の傘』を広げる」 と提言しました。

 

●傘と抑止で9条破壊●

 

  これと対照的な論調は、 ②の時代の変化を読みきれない 「核抑止」 「核の傘」 守れという論調で、 自民党政権と同質の産経新聞、 読売新聞がそれでした。 「どう生かすオバマ演説。 ~ (オバマ演説の 「核ない世界」 「行動する道義的責任」 という) この発言がヒロシマ ・ ナガサキに感動と希望をもたらしたことはうたがいない。 ~この気持ちを裏切ることなく核軍縮に指導力を発揮してもらいたい」 と言う一方で、 「もう一つの側面にも目を向ける必要がある。 世界の核状況は厳しい。 (核拡散防止条約 (NPT) の形骸化の一途、 中国の核拡大、 テロリストへの核が渡る危険を強調)、 深刻な核の脅威の下にある。」 「~北朝鮮の核ミサイルなどに対して、 日本は米国の『核の傘』に頼らざるを得ない。 オバマ演説のあと日本政府が核抑止力の低下を懸念して 「傘」 の再確認に動いたのは当然なことだ」 (読売) とオバマ演説の歴史的意味もその後の世界の展開もみようとしません。

 

  また 「北朝鮮の核許さぬ決意明確に。 広島長崎宣言に書き入れよ」 を繰り返し、 「米国の『核の傘』による抑止力は依然として必要だ」 (産経) というように、 唯一の被爆国日本と世界の 「核兵器廃絶の国民の悲願と展望を語れないものになっています。 憲法9条に憎悪をいだき、 核武装論を唱えてきた新聞の姿がそこにもあります。 まさに反国民的論調といえます。

 

●傘の中でチョッと前向き●

 

  これらの論調に比べ、 ③核兵器廃絶への世界的ともいえる変化を捉え、 期待しながらも、 「核抑止」 「核の傘」 論の誤りときっぱりと手を切れない論調も目立ちました。

 

  毎日は 「核なき世界へ弾みを。 核保有国、 非核保有国が地球規模で核軍縮不拡散態勢を築く必要がある。 米国の核軍縮が進めば『核の傘』の有効性、 依存は低下すると懸念する声もある。 『核の傘』 依存する構図は当面変わらないとしても米国のグローバルな核軍縮 ・ 核不拡散に軸足を移すのであれば唯一の被爆国日本がこれまで以上に積極的役割を果たせる筈だ。 新しい時代に見合った安全保障政策を打ち出さねばならぬ。 選挙で自民、 民主、 各政党がどのような安保政策を打ち出すのか明確に説明すべきだ」 と注文しました。

 

  日経は 「核拡散防止で日本の主導的役割を。 核軍縮の新たな機運が出てきたが、 一方で核拡散の脅威は広がり続けている。 ヒロシマ ・ ナガサキの発信力も利用して核軍縮や核不拡散体制の強化を先導すべきだ」 「北朝鮮の野望と脅威の広がりを封じ込めるべきだ。 日本の核武装論は極めて危険な議論だ。」 といい、 「核の傘」 には全く触れず、 オバマ大統領を広島、 長崎に招請し、 核廃絶の誓いを新たにすることこそ、 日本の重要な使命である」 と結んでいます。

 

  東京中日は 「自分自身のこととして。 核廃絶への転機が着た。 でも現状はどうでしょう。 」 と米 ・ ロ核保有国の拒否反応、 核抑止力に頼る姿勢を批判します。 そして別の角度から、 視点を変え 「もしオバマ氏が広島に訪れて、 もし対話がかなうとしたら『ヒロシマを自分のこととして考えてくださいと、 いつものように言うだけです』。 」 と被爆された細川さんの言葉を紹介し、 「だから、 あなたも、 私たちは自分のこととして、 この真実を受け止めなければなりません。 過ちを三たび繰り返してはなりません。 彼らの面影を直視して、 過去からの声に耳をふさぎません。 オバマさん、 だから、 あなたもー。」 と心に訴えて結んでいます。

 

●新たな決意で●

 

  核兵器のない世界への取り組みで重要なことは、 もはや時代遅れの通用しない核抑止論にもとづいた 「核の傘」 から、 きっぱりと離脱してこそ、 被爆国日本が 「核兵器廃絶」 の世界の先頭に立つことができるということに確信を持つことです。 「核の傘」 に頼っていながら 「核兵器の放棄」 を他国に求めても説得力はありません。 他国の核の脅しにすがって、 自国の安全を守ろうという考えの 「核抑止」 「核の傘」 論は、 唯一の被爆国であり、 憲法前文と9条の人類の平和的生存権を前提に、 紛争の平和的外交努力を重視すべき日本として、 最も恥ずかしい論理矛盾を示すものです。

 

  また 「核兵器廃絶」 と 「具体的部分的措置」 を一体のものとして取り組むこと、 ヒロシマ ・ ナガサキ議定書 (2020ビジョン) の核兵器廃絶の行程表にもとづいて、 究極の目標から緊急の目標へのアプローチを明確に地球的規模に位置づけ、 国際条約にすることがますます重要になります。

 

  「一人でも多くの被爆者とともに核廃絶の日を迎えたいからですし、 また私たちの世代が核兵器を廃絶しなければ、 次の世代への最低限の責任さえ果たしたことにならないからです」 (ヒロシマ平和宣言)。

 

  核廃絶への世界の流れを加速させたのは、 64年間ヒロシマ ・ ナガサキの苦悩と悲願を自分自身の問題として受け止めともにたたかった世界人民の力だ。 確信持って歴史的転換点に立って、 運動と世論の盛り上げを新たな決意で進めよう。