無題ドキュメント

 河野慎二/元日本テレビ社会部長・ジャーナリスト/テレビウオッチ22日米防衛利権の闇、地検捜査は「久間」に迫れるか テレビは弱腰姿勢改め、疑惑解明の報道を強化すべき /08/01/21

日米防衛利権の闇、地検捜査は「久間」に迫れるか
テレビは弱腰姿勢改め、疑惑解明の報道を強化すべき

河野慎二
(元日本テレビ社会部長・ジャーナリスト)

 

  積年の日米防衛利権疑惑に捜査のメスが入った守屋武昌・前防衛事務次官の逮捕から1ヵ月余、年明け早々二つの動きがあった。一つは、日米軍需産業と政財界をつなぐキーマンとして、同疑惑解明に欠かせない青山直紀・日米平和文化交流協会専務理事が国会に参考人として姿を現したこと、もう一つは、「新テロ対策特措法」が国民の前に問題点を明らかにされないまま、衆議院で自公両党の賛成多数で再議決され、成立したことだ。

 メディア、特にテレビはこの日米防衛利権疑惑解明の取材・報道に、どんな対応をしたのか。テレビ本来が持つ、訴求力の高い映像・音声取材機能を生かして、核心に迫る取材を展開できたのか。残念ながら、現在の時点までは、この問題にテレビが腰を据えて取材しているとは、とても言い難い。東京地検の捜査を待って、一気に巨悪に迫ろうとしているのか。その日に備えて、資料VTRをストックしているのか。

 本稿では、日米防衛利権疑惑解明にテレビがどれだけ取材し、疑惑解明の判断材料となる素材をどれだけ視聴者に提供したかを検証し、今後の課題を考えてみたい

■防衛利権の「キーマン」秋山氏国会に登場、NHK中継に注目集まる

東京地検だけでなく、国会議員やメディアが注目したのは、1月8日に参議院外交防衛委員会で行われた秋山直紀氏に対する参考人質疑である。日米の軍需産業と政界を結ぶ「パイプ役」「黒幕」と言われる秋山氏がどういう証言をするのか。東京地検の捜査にはもちろん、メディアの取材にも重要なヒントになる。

 委員会室には、NHKの中継カメラを筆頭にテレビ各社のカメラが秋山氏に焦点を合わせ、記者席は秋山氏の証言にペンを走らせる記者たちで溢れかえった。国会記者会館や各社のデスクでも、記者たちが秋山氏の証言を聞き逃すまいと、NHK生中継を食い入るように見つめ、メモを取った。

 国会の参考人招致は、議員証言法に基づく証人喚問とは違って、参考人がどのような証言をしても、偽証罪に問われることはない。秋山氏は当然そのことを熟知しているから、各委員の質問を「笑顔、余裕の証言」(1月8日、毎日夕刊)で否定し、捌いてみせた。
 
2、3例を挙げれば、「山田洋行側から、米国国防関係者の紹介などのコンサルタント料として1億1000万円を受領した」疑いについては、「そういう事実はございません」。「山田洋行から06年秋、次期輸送機(CX)エンジン導入を巡り、3000万円の提供を受けた」疑惑についても「そういう事実はない」と突っぱねている。旧日本軍の毒ガス弾処理事業を巡っても、山田洋行側から約1億円を受け取った疑惑が持たれているが、これについても秋山氏は「そういう事実はない」と否定した

秋山氏「否定」連発も、疑惑解明に重要な手がかり

ただ、NHKの生中継を冷静に観察すると、疑惑の核心の一端が垣間見えてくる。「逮捕された山田洋行の米子会社元社長は、毎年10万ドルのコンサルタント料を、アドバック社に支払ったと供述しているが、アドバック社はあなたが日米の軍事メーカーや商社から受け取るコンサル料の実質的受け取り窓口を果たしているのではないか」との質問に対し、秋山氏は「コンサルタント会社については、守秘義務があり答えられない」と発言している。なぜ、明確な否定を避けたのか。日米平和文化交流協会は昨年11月15日、東京地検の家宅捜索を受けているが、そのことと関係があるのか。
 
政治家との関係についても、解明すべき課題が次々と明らかになった。石破防衛相や久間元防衛相ら防衛族有力政治家との親密な関係や宴席での密談の実態は、見過ごすことはできない。徹底的な究明が必要だ。秋山氏は、自衛隊出身の故・田村秀昭元参院議員が89年の参院選に出馬する際、比例名簿の順位を上げるよう、金丸信・元自民党副総裁(故人)に要請し、「その結果、比例順位が10位に上がり、当選した。その後田村氏は金丸氏に近づいた」と証言し、政界との関係を誇示してみせた。
 
 秋山氏は、永田町サクセスストーリーを地で行く人物とされる。金丸氏の知人の運転手役を務め、知遇を得たのが、幸運の切符をつかむきっかけになったという。秋山氏が「日米文化振興会」(現在の日米平和文化交流協会)の理事に就任したのは1989年。専務理事になった02年以降、協会は「防衛産業からの口利きの隠れみのではないか」(浅野勝人自民党参院議員、1月8日)と、身内のはずの自民党議員から批判されるほど、軍事色を強めている。

■「秋山参考人招致」を掘り下げて報道しないテレビ

  メディア、特にテレビはこの「秋山参考人招致」をどう伝えたか。結論から言えば、お粗末の一言に尽きる。比較的長めに取り上げたのは、テレビ朝日「報道ステーション」だった。しかし、トップ項目ではなく3番目の扱いだった。「キーマン表舞台に登場」のタイトルで、秋山氏が20年前に金丸氏と知り合ってから「実力者」にのし上がる経過を短く紹介。「秋山専務理事は今や、日米軍需産業のパイプ役、日米軍事関係を結ぶキーマンと見られる」と指摘した。

 番組では質疑のやり取りを、VTRで一部放映する。「久間元防衛相、宮崎元伸容疑者と宴席を共にしたことはあるか」秋山「1回か2回はある」「山田洋行側から25万ドルを受け取っているか」秋山「事実はない」「山田洋行側は25万ドルを提供した後、久間氏宛ての支援要請文書を渡したという情報があるが」秋山「そういう事実はない」

 これを受けて、番組では加藤千洋コメンテーターが「問題は、パイプの中を何が通ったのか。利権のカネが通ったのか。(政府は)管理・監督をしっかりやったのか」とコメント。古館キャスターが「政治家は、国民生活のためにやっているのかが問われる。政官癒着、日米軍需産業癒着の問題を、当局は徹底的に究明してほしい」としめくくった。
 しかし質疑のやりとりのVTR放映が短すぎるし、秋山専務理事を巡る疑惑の経過や背景説明も時間が足りない。キャスターが「徹底究明」を強調しても、テレビを見ている側からは消化不良の感は否めない。

 この「報道ステーション」以外では、ほとんど見るべき報道はなかった。TBS「筑紫哲也NEWS23」も取り上げたが、「秋山氏は不透明な資金受領疑惑については全面的に否定した」「久間氏らとの宴席は複数回を認めたが、疑惑は否定」と、ありきたりの報道でお茶を濁した。その他の局は、事実上「その他ニュース」扱いで、視聴者の期待とはかけ離れた、貧弱な内容だった。

■「秋山参考人招致」は疑惑解明に持って来い≠フ素材
テレビはなぜ、絶好のチャンスをみすみす逃すのか

 日米防衛利権疑惑解明のキーマンが国会に姿を現したことは、テレビにとって絶好のチャンスではないか。秋山氏は95年以降毎年、防衛関係議員や軍需産業幹部と訪米し、米国の政財界や国防関係の要人との会談や軍事施設の視察を行っている。2003年秋からは、米国国防関係者を招いてシンポジウム「日米安全保障戦略会議」を開いている。

 テレビ局には、そうした映像をストックしているはずだ。その映像を活用して、秋山氏が「実力者」にのし上がっていく経過や背景をニュース番組で特集することは、お手の物だ。ところが、どの局も、参考人質疑の秋山氏を伝えるだけで、経過や掘り下げた背景説明がない。だから、秋山氏招致が疑惑解明にどう影響するのかがいま一つ判らない。

 昨年夏の参院選で有権者が自公政権にNOの判断を下した直後は、テレビもその民意に沿って、インド洋給油とアフガン和平の問題やインド洋給油の「イラク転用」疑惑、福田首相と小沢民主党代表の「大連立」問題などについて、それなりに積極的な報道を展開した。民意がテレビ報道を活性化したことは、本コラム「テレビウオッチ」(18回〜21回)で指摘した通りだ。
 
 当時、情報を多角的に提供し、問題点を明らかにする一翼を担ったのは、ニュース番組だけでなく、各局の朝の情報番組だった。情報番組は時間的に制約のある定時ニュースに比べて、より多くの映像情報の提供が可能だ。「スーパーモーニング」(ANB)や「ウエークアップ」(NTV)、「サンデーモーニング」(TBS)などの番組を通じて、視聴者は多少なりともこれまで隠されていた情報を手に入れることができた。

 しかし、今回の日米防衛利権疑惑については、テレビの情報番組はすっかり口を噤んでいる。各局の情報番組やワイドショーは、06年の「小泉靖国参拝」問題や昨年のインド洋給油「イラク転用」疑惑などについては、多くの特集を組んで情報を提供したが、今回の疑惑については、筆者の見落としがなければ1回も特集していない。日米防衛利権を掘り下げて報道するのは、何かタブーでもあるのか?と勘ぐりたくなるほどの弱腰ぶりだ。

■秋山氏の証人喚問はいつ実現するのか
 久間元防衛相に東京地検の捜査の手は伸びるのか

  当面の最大の関心事は、秋山専務理事に対する東京地検の事情聴取がいつになるか、という点だ。民主、共産など野党各党は、秋山氏の証人喚問を要求しているが、18日から開会される通常国会のどの時期に行われるかもポイントになる。そして、その先に久間元防衛相に対する強制捜査の問題が控える。永田町は、久間氏に捜査の手が伸びるかどうかを、固唾を呑んで見守っている。

 というのは、久間氏に捜査が及ぶと、現政権はロッキード事件をはるかに超える深刻な影響を蒙ることが避けられないからだ。雑誌「選択」(07年12月号)は、昨年秋の「大連立」騒動の背景について、「小沢が『久間は助からないだろうか』と福田に持ちかけたらしい」という自民党内の情報を紹介している。「もし久間が捕まれば、米軍再編計画が実は米国の意のままにつくられた疑惑のスキームだとばれてしまい、頓挫する。そうなれば日米関係は悪化。やはり疑惑にフタをするには大連立するしかない、と」。

 在日米軍再編にかかわる経費は総額で3兆円とされている。そのうち、在沖縄米海兵隊員8000人のグアム移転経費は1兆1千億円で、60%6600億円を日本側が負担する。住宅建築費も米側の言い値を丸呑みにし、何の検証もしていない。まさに、国を売るに等しい屈辱的なプランだ。

 久間氏は、こうした売国的な再編計画を日本側の中心となって推進した人物だ。久間氏が真実を語れば、日米安保のスキームが根底から揺らぎかねない。検事20人を動員しているとされる東京地検の捜査の鉾先が、久間氏に向かっているのは間違いない。ただ、久間氏に累を及ぼさせてはならないという強い力が水面下で働いているのも、容易に想像できる。政界暗部の強いプレッシャーとせめぎあいながら、東京地検の捜査が進められていると見るのが正しいのだろう。
 
ジャーナリズムは調査報道機能をフルに発揮し
 日米防衛利権解明の報道に本腰を入れて取り組むべき

自公両党は1月11日、インド洋で米軍に給油を再開する「新テロ対策措置法」の再可決を衆議院で強行し、成立させたが、各社の世論調査によると、TBSが「不支持52%」「支持39%」、日本テレビが「不支持50・5%」「支持39・6%」などと、「再可決を支持しない」「新テロ対策法反対」が大勢となっている。

 メディア、特にテレビはこの「新テロ対策法」の内容や問題点については、ほとんど報道してこなかった。このため、国会の事前承認が削除され、文民統制(シビリアンコントロール)の原則が骨抜きになることも、自公両党の思惑通りに通ってしまった。にもかかわらず、世論はこの法律に胡散臭さと危険性を感じ取り、反対が多数を占めている。

 つまり、昨年夏の参院選で示された民意は、変わっていないということだ。その民意を背景に、テレビをはじめ各メディアがインド洋での給油がイラク爆撃にも転用された疑惑などを積極的に報道したことが、民意が揺らぐことがない大きな要因となった。
石破防衛相がテレビ朝日の「サンデープロジェクト」(1月13日)に出演し、「防衛省疑惑で、『油を出すより、膿を出せ』という批判に行っちゃっている。説明不足だ」と、ボヤいていたが、政府が民意の強さにショックを受けていることを示している。

 昨秋、守屋前防衛次官が逮捕された翌日、読売は「癒着23年ついに立件」と題して、「日本の防衛費は07年度当初予算で約4兆8000億円。巨額の利権を取り巻く『政官業』の癒着の解明は始まったばかりだ」(11月29日)と指摘した。年が明けて、「秋山参考人招致」で解明は緒についたのか。秋山氏は疑惑をいずれも否定した。「防衛利権の闇は深くなるばかり」(朝日社説、1月9日)なのだ。
 
ジャーナリズムは今こそ、調査報道機能を駆使して、疑惑を解明する取材を強化する必要がある。テレビもこれまでの弱腰な姿勢を改めて、防衛利権の闇にカメラとマイクを向けてほしい。それを怠れば、参院選の民意に依拠して活性化したテレビ報道は、再び視聴者の信頼を失うことになる。

このページのあたまにもどる。

2008

22日米防衛利権の闇、地検捜査は「久間」に迫れるか テレビは弱腰姿勢改め、疑惑解明の報道を強化すべき /08/01/21

2007
11安倍首相国民に挑戦、参院選で憲法改正を争点に正念場迎えるテレビ、報道姿勢が厳しく問われる /07/01/15
12NNNドキュメント「ネットカフェ難民」 /07/02/15  
13安倍首相「従軍慰安婦」で火ダルマ 報道責任を放棄したNHKニュースの異常/07/03/15
14政府の意向がストレートにNHKへ? 「経営委員会強化」による放送への介入は許されない /07/04/17
15NHKの憲法報道、番組は健闘、しかしニュースは… 視聴者の信頼失墜を招くNHKのダブルスタンダード/07/05/16
16テレビ「消えた年金」を積極取材、安倍政権窮地に
―「政治とカネ」「陸自国民監視」にもカメラを向けるべきだ!!―
/07/06/23
17裏目に出た安倍首相テレビ単独生出演 ―日テレ、テレ朝など放送法破り、少数政党切捨てに加担― /07/07/24
18「1票の力」が安倍政権を追い詰め、政治を動かす 政治・国民生活に変化の予感、テレビ報道の真価が問われる /07/08/24
19安倍無責任辞任と総裁選に踊らされたテレビ 自衛艦インド洋給油、政治とカネ報道で真価が問われる 07/10/03
20インド洋給油継続がアフガン和平につながるか、 テレ ビは政策転換へ世論喚起の報道を強化すべき07/11/02
21渡辺恒雄氏「大連立」の策謀報道原則逸脱した行動に、テレビは検証番組の編成を/07/12/06