戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

護憲的改憲論なるものに与しないぞ 17/04/30

明日へのうたより転載

 「なるほどそうか」と注目した文章がある。『週刊金曜日』4月28日、5月5日合併号の宇都宮建児氏の小論。タイトルは「新9条論(護憲的改憲論)は有効か」。「(戦争法成立後)自衛隊の存在を憲法に明記し、自衛隊の実力行使に歯止めをかけるべきだという『新9条論』または『護憲的改憲論』が台頭してきている」として、小林節、伊勢崎賢治、田原総一郎、今井一氏らの名前を挙げている。

 おれはこの宇都宮論文を読んで、55年ほど前のある「論争」を思い出した。当時おれは20代前半で250人の輪転職場に2人しかいない毎日新聞労組東京支部執行委員だった。同時に新聞労連東京地連の書記長も兼務していた。警職法改悪反対や60年安保闘争の真っただ中、労働運動の昂揚期だった。

 高度経済成長の波に乗って新聞に面白いほど広告が集まり、それを紙面に載せるため増ページ競争が盛んだった。それは直接労働条件の悪化につながると同時に、広告主への配慮から報道の自由が侵されるのではないか、という懸念もあった。新聞労連は勿論、毎日労組も増ページ反対闘争に取り組んだ。

 その時出たのが「絶対反対か条件闘争か」という議論である。増ページ反対と言ってもどうせ阻止できるものではない。増ページそのものは認めて、労働強化にならないように増員とか休憩時間確保とかの要求を出せばいい。報道の自由については増ページ反対運動とは切り離してたたかうべきだ。

 おれたちは職場集会を基本に、組合大会でも新聞労連の各種会議でも侃侃諤々の議論をした。おれは青年層や新聞労連に結集した他社の仲間とともに、増ページの本質は資本の過大利潤の追求にあり、搾取の強化である。病源は根っ子から断ち切らねばならない、として絶対反対闘争の貫徹を主張した。

 労連共闘、職場闘争を通じてはげしくたたかい、増ページは止められなかったが、結果的に増員や休憩時間を確保させた。言論の自由を守ろうのスローガンのもと、新聞研究活動が大きく盛り上がった。おれたち活動家は増ページを止められなかった挫折感を克服し、原則的たたかいの大切さを噛みしめた。

 『週刊金曜日』に戻る。宇都宮氏と同じテーマで論じた田中優子氏は「軍事力について悩み、議論し、現実と理想の乖離に心地悪い思いを持つ」それが「憲法9条の存在理由である」ときっぱり言い切る。その通りだと思う。