戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)聞け!過労死遺族の悲痛な叫びを 17/03/22

明日へのうた]より転載

  月100時間の過労死ラインを認める「労使合意」が大問題になっている。全労連をはじめ労働組合、労働弁護団はもちろん、一番声高く怒っているのは過労で家族を亡くした遺族の方々だ。3月15日に開かれた労働弁護団主催の集会で「東九州過労死を考える家族の会」の桐木弘子さんは悲痛な声をあげた。

 「私は9年前、過労自死で、23歳の息子を亡くしました。大手自動車会社の整備士だった息子は、転勤後わずか4カ月半後に、『工場長、使えない人間で、すみませんでした』という遺書を残して、自ら命を絶ちました。繁忙期の一番忙しい時期に転勤させられ、息子は戦力として働かされて、重大なミスをおかしてしまいました。周りの支援もなく、自信をなくして、精神疾患を発症したあげくの自死でした。

 自分の命にかえても守りたいと思って必死に育てた我が子が、仕事が原因で自死するときの衝撃は想像を絶するものでした。最愛の我が子を救えなかった自責の念と絶望、喪失感など、とても言葉で言い表せない苦痛でした。子どもに先立たれた母親の悲嘆が一番大きいと言われていますが、もっと苦しくつらかったのは息子本人です。死を決心したとき、どれだけ苦しんだのか、死を決行したときどれだけ痛かったのか。仕事から逃れる方法がそれしか思い浮かばなかった息子がかわいそうで今でも胸が詰まります。

 国会では、時間外労働の上限を繁忙期に100時間まで認めるという恐ろしい法律が制定されようとしています。たとえ100時間未満ととりつくろっても99時間と100時間にどれだけの違いがあるのでしょうか。この法案を通そうとしている人たちは、100時間の時間外労働がどれだけ過酷なものか認識しているのでしょうか。

 過労自死は、仕事が原因でうつ病に罹患することによって死に至ります。過労死ラインを合法化し、死ぬかも知れないとわかっている労働時間を働かせたあげく、死なせることがあれば、まさに殺人であると私は考えます」(「弁護士ドットコム」で紹介された集会アピールより)。

 おれたちが労働組合運動に首を突っ込んだ時、一番最初に目にしたスローガンは「職場を基礎に、いのちとくらしを守ろう」だった。過労死ラインを認めるろ「労使合意」には、職場労働者の苦痛も、いのちの大切さも感じられない。これはまぎれもなく社会の退行であり、組合存立の意義の喪失であるとおれは思う。