戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)話にならない政府「指針」 16/12/23

明日へのうた]より転載

 政府が「同一労働同一賃金ガイドライン」案を示した。これから働き方改革実現会議で検討されることになる。「非正規にも賞与・昇給」「同一労働同一賃金 政府が指針案」(21日付『毎日』)。「基本給格差を容認」「非正規待遇 政府が指針案」「格差固定化の危険」(21日付『赤旗』)。

 ガイドラインとはどんなものか。まず基本給だが「『職業経験・能力』『業績・成果』『勤続年数』の各観点が同じなら同一に。違いに応じた差は容認」となっている。これでは使用者に「格差容認」の根拠を与えただけではないか。労働の評価をするのは使用者である。異議があっても立場の弱い非正規労働者が文句を言えるわけがない。異種労働だから基本給が低くても当然だと断定されるだけだ。

 「非正規にも賞与」というが、正社員並みの賞与とは言っていない。ほんの雀の涙ほどを「業績への貢献」の違いに応じて支給するというのだから、6割不支給という現行が改善される期待は持てない。昇給に関しては「認める」というだけで、具体的に実施へ向けての指針は見当たらない。

 時間外手当や深夜・休日割増を差別しないというのだが、規定通りの手当や割増賃金を支払わなかったら正社員との差別というよりそのこと自体が労基法違反だ。通勤手当、出張旅費、食事手当、慶弔休暇の同一支給については、この指針では「異種労働だから手当を支給しない」と逆用される危険がある。

 そもそも派遣をはじめ、非正規労働を野放しに拡大してきたことが大問題なのだ。社会へ出て働こうとしたら派遣や契約社員しか働き口がない。正社員への道は入り口で閉ざされている。そんな閉塞社会をつくっておいて口先だけ「同一労働同一賃金」などと言ったところで誰が信用できるか。

 確かに昔からパート・アルバイト・臨時・日雇い・内職などの非正規労働はあった。しかしそれは全体の労働者からすれば少数だった。派遣事業は「中間搾取」として禁じられていた。それが1985年に労働者派遣法ができて派遣業が公認される。初めはごく限定されていた派遣業種がどんどん拡大する。今や日本の労働人口の4割が非正規であり、不安定雇用、無権利労働がはびこっている。

 昨年派遣法が改悪されて「生涯派遣」が問題になった。その人の生涯にわたって派遣会社が生血を吸う制度だ。こんな制度をつくっておいて小手先のごまかしをしても話にならない。