戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)朝日新聞「危機」を叫ぶ週刊誌に思う 16/10/15

明日へのうた]より転載

 昨日、新聞広告につられて430円も出して週刊誌を買った。『週刊ポスト』(10月28日号)。「(情報メディアの未来を考える)朝日新聞『社外秘』資料入手!」「『3年で500億円減収』の衝撃」「《全社員に知っていただきたいこと》に書かれた新聞メディアの行く末」「『吉田調書』『吉田証言』の不祥事から部数減が停まらない――追い込まれた〝クォリティペーパー〟はどこへ向かうのか」〟

 4ページにわたる記事を早速読んでみた。「社員1人あたりマイナス1200万円」「《運転資金が回らなくなる》」「100億円規模の人件費カット」「『柱』は不動産事業になる」。発行部数が12年度の762万部から670万部に落ち込み、広告媒体価値が下がった。固定費の削減に努力してなんとか収支を合わせてきたがもう限界。人件費に手を付けざるを得ない。一言で言えばそれに尽きる。

 「本誌が入手した『社外秘』資料」とはどんなものか。朝日新聞労使は今年初めから「賃下げ」と「65歳定年」に関する交渉を進めてきた。それが7月6日に組合から「議論を打ち切る」と宣言され、決裂してしまった。それに困った会社が組合の頭越しに全社員に対し経営危機の資料を配布したもの。もしかすると週刊誌にネタを提供したのも社外からの世論づくりを狙う会社側かも知れない。

 週刊ポストは触れていないが、会社が今年初めに提案した「賃下げ・年収引き下げ」の内容は凄まじいものだ。全体で100億円規模の人件費削減が目標。うち70億円を月例賃金、期末手当で削減する。年齢給などの諸手当は職能給に一本化し、廃止へ持っていく。これで年収の12.6%の削減となる。

 組合は4月末、「人件費抑制の必要性は認める。ただし、12.6%減とする会社提案のままでは受け入れない」とする見解を組合員に示した。しかしその後、15年度決算で営業利益としてリーマンショック後最高の79億円が計上された。会社説明の業績見通しの正確性に疑問が浮上。6月の期末手当が超低額だったこともあいまって一気に交渉決裂に向かったのである。

 発行部数減、広告収入減は朝日新聞だけの問題ではなく、新聞メディア全体の行く末にかかわる現象である。国の世論に大きな影響を持つ新聞メディアが経営的に揺らいでいるいま、政治権力の側から強圧的な言論統制が襲いかかる危険に晒されていると言えるだろう。新聞労働運動にとっても正念場を迎えているのではないだろうか。