戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)労働者は終身雇用と平等社会を志向している 16/09/28

明日へのうた]より転載

 「労働政策研究・研修機構」(JILPT)という独立行政法人がある。理事長が元中労委会長の菅野和夫さんである。菅野さんとは都労委で、公益委員と労働者委員という間柄で10年ほど一緒に仕事をした。深夜までねばって和解を成立させたこともあるし、石播事件では二つの救済命令を出してもらった。

 そのJILPTが9月23日、2015年に行われた「第7回勤労生活に関する調査」の結果を発表した。副題に「スペシャル・トピック「『全員参加型社会』に関する意識」とある。調査目的=①勤労者の生活実態の把握、②日本型雇用形態などに関する意識、③生活満足度や社会のあるべき姿等への見方。

 調査の第1項は日本型雇用形態の特長の一つである「終身雇用」についてである。「終身雇用」の支持率は87.9%で99年の第1回調査時の72.3%を5ポイント余上回っている。中でも20歳代は99年時の67.0%が今回は87.3%だから20ポイントの上昇である。何を意味するかは明白だろう。

 次は「年功賃金」支持率だが、99年時の60.8%が76.3%へ、実に16ポイントもの支持率増である。20歳代で見ると56.2%が72.6%、30歳代も56.8%が72.8%と若者も年功賃金志向へと傾いている。安倍政権が吹聴する「成果型賃金」は支持されていないということだ。

 そのことがさらに顕著になるのは次の調査結果である。「日本が目指すべき社会」とは何か。①貧富の差の少ない平等社会、②意欲や能力に応じ自由に競争できる社会、このどちらを選ぶか。99年時では40.9対32.5で②、以後04年(42.3対30.6)までは②が多かったが、07年調査でそれが①43.2%、②31.1%と逆転する。今回調査では38.1対33.7と差は縮まったが傾向は続いている。

 26日に開会された第192臨時国会で安倍首相は「働らき方改革」を政策の目玉として推し進めようとしている。その基本理念は「成果追求型の自由競争社会」である。賃金は労働時間とか労働密度を物差しに決められるのではなく、あくまでも「労働の成果」が重んじられなければならない、というわけだ。

 そんな国の方針が強調される中で、今回の準政府機関・JILPTの「勤労者の意識調査」は明らかに反する。行革の的にされて菅野さんもろとも抹殺されないかと心配だ。それにしても新聞はじめ各メディアは何故こんな重要な調査結果を無視するのだろう。