戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)原発テロ防止に作業員の身元調査? 16/09/13

明日へのうた]より転載

 9日付『毎日』の社会面を見て気が滅入った。右隅の小さな記事である。「原発作業員の身元調査」「テロ対策で規制委」「自己申告に基づき面接」。原発再稼働問題でとかく批判のある原子力規制委員会が「原発など原子力施設でのテロ行為を防ぐため、施設内で働く作業員らの身元調査制度を導入することを決めた」というのだ。命を的の危険な仕事をさせておいて「そこまでするのか」とおれは腹が立つ。

 いま原発作業員というのは3種類ある。一つは福島第一原発の事故収拾に従事する労働者。次は同じ福島で放射線の除染作業をする労働者。最後に原発稼働施設で定期的に機器の洗浄や点検をする労働者だ。

 「原発ジプシー」という言葉がある。37年前にフリーライターの堀江邦夫氏が著したノンフィクション本の題名だ。歌手の加藤登紀子さんも「見えない光をからだに受けて赤いブザーの鳴り響くまで」と歌った。被ばく量が限度を超えるとブザーが鳴り、その労働者はクビになるというのだ。

 福島の原発労働者を含めて彼らの多くが多重下請構造の中で働いている。中には暴力団関係の派遣で回される労働者もいる。先ごろ新聞九条の会福島ツアーで地元の元高校教諭の話を聞いたが、浪江町や飯館村では住民より原発関係の労働者の方が多い。治安も悪化して女子高校生が1人では歩けないほどだ。

 「身元調査は、核物質のある防護区域などに立ち入ったり、重要情報にアクセスしたりする人が対象で、下請け企業の作業員も含む。住民票などの書類のほか、テロ組織や暴力団と関連がないことを誓約する申告書を提出させ、面接を実施。犯罪歴や海外渡航歴、薬物依存の有無も尋ねる」。

 どうやら原発作業員の中に「テロ組織に関連」する人物がいる可能性を想定しているようだ。確かに原発施設の中でテロ行為が行われたら日本列島は放射線汚染で壊滅してしまう。そのような惧れを知っていながら原発を推進し、原発ジプシーに危険な仕事を任せていたのは誰なのか。今更「自己申告」で「危険な労働者」を排除しようとしても遅すぎる。まず原発という根っ子を断絶するべきだ。

 福島第1原発事故から5年半、今更ながらその深刻な現状があちこちで語られている。それなのに国と九州電力は鹿児島県の川内原発の稼働を、知事の再度の要請にもかかわらず停止しようとしない。そのことが一番の問題なのである。原発作業員を悪者に仕立てれば済む話ではない。