戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)海外旅行・北京(1999年)② 16/08/29

明日へのうた]より転載

 京劇訓練学校の訪問はテープに録ったのが残っている。それによると学校名を「中国ギショク学院」と呼んでいる。「ギショク」とはどんな漢字なのか。もう17年も前の話なので記憶が薄い。多分演技の技に職業の職で「技職」つまりプロの京劇演技者を養成する学院ということだと思うが違うかも知れない。

 この学校はいわば専門大学で、全国の高校から優秀な若者を選抜、みっちり鍛える。おれたちの訪問した日も猛訓練が行われていた。曲芸のような演技を繰り返し叩きこむ。できない生徒には叱声が飛ぶ。総じて男子より女子の方がレベルが高い。中に何人か韓国や東南アジアからの留学生が混じっていた。訓練現場の見学の後、別室で校長先生の説明を受けた。京劇に対する愛着と熱意に溢れる話だった。

 学院を出て人民大会堂へ向かう。途中の道路に掲げられたスローガン。「祖国を愛し、人民を愛し、労働を愛し、社会主義を愛する」「思想・道徳を確立し、教育・文化をつくろう」。天安門も人民公会堂も建国50周年に向けてお色直しの改装中だ。大会堂の議場に並んだ1万席の椅子は圧巻だった。

 午後は故宮見学。紫禁城の城壁沿いの道は映画「ラストエンペラー」の世界だ。屋根は黄色、壁は赤だがこれが紫に見えるというということで紫禁城だ。確かに結構な建物だが、それだけという感じでさしたる感銘はない。故宮の裏口から出て友誼商店と称するおみやげ屋に連れていかれる。書画骨董、宝石やお菓子などいろんなものを勧められたがすべて断って店を出た。夕食後、夜はまた京劇だ。

 同行の舞台美術労組の人たちは、専門家だけに食い入るように舞台に集中している。おれはいささか食傷気味だ。その気持ちが出てしまったのか、その後の会話がぎくしゃく。顔見知りの堀江さんや久保田さんはいいのだが、初顔の人からは「なに?この男、偉そうにしやがって」と思われた様子。最終日に空港へ向かうバスの中で、舞台美術労組に対するお礼を言わせてもらい、反省の意を滲ませたつもり。

 1月8日9:20に北京空港を発って、13:50(日本時間)に成田に帰ってきた。手元にこの北京・京劇ツアーのアルバムがあるが、外出の写真は防寒着で見事に膨らんでいる。街中はとにかく寒かった。市内見物で人力車に乗ったが寒さで震え上がった。おれは北京よりもっと寒い満州で幼少時を過ごしたはずだが、この寒さには参った。年寄りは冬の北京だけは敬遠した方がよさそうだ。