戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)空疎な厚労省「懇談会」報告書 16/08/20

明日へのうた]より転載

 厚労省の諮問機関「働き方の未来2035:1人ひとりが輝くために」懇談会が報告書をまとめて発表した。「『働き方の自律化』掲げる厚労省懇報告」「労働法制後退の危険」(17日付『赤旗』)。報告書を自分で読んでみようと、厚労省のホームページを開いた。報告書全文が載っていたが、A4版27ページもある。奥歯にものの挟まったような文章で、読んでいていらいらする。一体何を言いたいのだ。

 「『技術革新』は、強い人にも弱い人にも大きなものにも小さなものにも、すべてに対して中立だ。『小よく大を制す』可能性があるのも〝技〟の醍醐味であり、貪欲に新しい技術を研究したり、活用したりする者の努力や研讃は、誰にも止めることができない」。――おれには何を言ってるのか分からない。

 「AIを中心とした技術革新は脅威というよりは、時間や空間、年齢や性別といった『壁』を取り除き、多様な働き方を可能にするツールであり、武器と捉えるべきだ。働くすべての人々に大きな恩恵をもたらすだけでなく、企業や組織の在り方、労働政策にも今後変化をもたらすだろう」。

 そして「報告書」は、技術を高め輝く未来をつくるには教育が大切だと強調する。「挑戦と失敗を繰り返しで学び〝無から有を生み出す〟ことの大切さを教えることが不可欠である。単に物事を『覚える』よりも、『考える』『友達を作る』『力を合わせる』といったソーシャルスキルや人と接する能力を身につけさせる方が、実社会では通用する」。今更そんなご託を並べられてもねえ・・・・。

 最後に労働者に対して偉そうに「働く心構え」を説いている。「『どんな会社に入るか』ではなく、『どんな仕事をするか』『どんな会社を創るか』を人生の選択肢として考え行動し、変化に対応していってほしい」。こうなると「お前バカじゃないか」と言いたくなる。労働現場を知らないにも程がある。今時「どんな仕事をするか」「どんな会社を創るか」なんて選択肢が通用する会社がとこにある。

 「報告書」の締めの言葉が奮っている。「(日本人が長い時間をかけて継承してきた文化、伝統を発揮して)個々人が働きがいや生きがいを感じながら『個』を活かして自分らしく輝ける社会。これこそが、目指すべき2035年の姿である」。今必要なのは「働き方」のご託宣でなく「働かせ方」の社会的規制だ。労働と労働者が尊重される世の中をどうつくっていくかということだ。となれば何といっても労働組合にがんばってもらわなければならない。厚労省やなんとか懇談会に任せとくわけにはいかないのだ。