戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)狙い撃ちされる憲法24条 16/08/09

明日へのうた]より転載

  「すべて国民は、個人として尊重される」(憲法13条)は戦後社会の根幹をなす思想である。改憲勢力にはこの条文が気に入らない。自民党改憲草案では「個人として」の「個」を取ってしまった。これでは憲法で規定する何の意味もなくなってしまう。それどころか個の尊重を否定することになる。

 憲法にはもう一箇所「個人の尊厳」を謳った条文がある。24条である。婚姻を「両性の合意のみに基いて成立」するものとし、これに関する法律は「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚」しなければならないと規定している。戦前の日本は家族の前に個人はなかった。それをひっくり返したのである。

 いまこの憲法24条が右からの攻撃に晒されている。指摘するのは山口智美米モンタナ州立大学社会学・人類学部教員(『週刊金曜日』8月5日号)。「(日本会議などは)少子化の原因は『未婚化』にあるとして、結婚しない男女が増えるのは13条や24条の個人主義が原因だという論理です。自民党改憲草案は『両性の合意のみ』の『のみ』を取るべきだと主張していますが、本人以外の意思で結婚させ、さらには簡単には離婚させないようにするためのものではないでしょうか」。

 憲法13条や24条を「行き過ぎた個人主義」と断じ、「家族の価値を再評価する」という論理はそれなりの説得力を持っている。日本会議の女性組織である「日本女性の会」は、草の根活動で「今の憲法では結婚できないらしいわよ」とささやいているという。(『週刊金曜日』8月5日号)。

 今でも「家族は、互いに助け合わなければならない」「3年間抱っこし放題」「夫婦別姓は家族を破壊する」などという言葉がすんなり入っていく素地がある。そんな国民感情に訴えかけて憲法を変える動きが浸透している事実を直視しなければならない。われわれの運動の工夫も必要だろう。

 しかしどんなにうまく言葉を操っても彼らの真意は戦前のイエ思想への復帰に過ぎない。イエ思想は国家主義、天皇制に直結する。安倍政権の戦争志向政策に歩調を揃えることだ。それに気づいた多くの人たちが反旗を翻し始めた。これまで右翼思想の最先端の宗教だと思われてきた「成長の家」が今度の参院選では安倍路線と決別し、「与党とその候補者を支持しない」と声明した(6月9日)。

 昨8日に「生前退位のお気持ち」なるものを表明した天皇の胸の内も、これらと一脈通じるものがあるのではないかとおれは見ている。安倍政権に対する離縁状と見るのは過剰意識なのだろうか。