戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)年金積立金の株式運用は即座に止めよ 16/07/30

明日へのうた]より転載

 既に分かっていたことではあるが、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による、年金運用損失5兆3000億円(2015年度)というのは頭にくる。「年金運用損5.3兆円」「15年度 株価下落が影響」(30日付『毎日』1面)。「株価上げ狙い裏目」「国民の不安強まる」「短期損失『給付に影響せず』」「薄れる株価上昇期期待」(同6面総合・経済面)。

 運用資産の総額は134兆7475億円で、前年度より2兆7294億円減(マイナス3.81%)。損失を資産項目別に見ると、外国株式3兆2451億円、日本株式3兆4895億円、外国債券6600億円。一方国内債券は2兆94億円の黒字である。以前は国内債券主体の運用だったのに14年10月から株式重点に変えた、そのしっぺ返しが今回の大幅損失につながっているのは間違いない。

 何故株式重点の運用に切り替えたのか。アベノミクスを維持するためである。アベノミクスの実績を示す指標として株価の高騰がどうしても必要だった。アベノミクスの当初は日銀の垂れ流し金融緩和のおかげで株価が上がったが、そんな見せかけの「景気回復」が続くわけがない。すぐ株価は下がり出した。

 そこで安倍首相と塩崎厚労相が、株価つり上げのカンフル剤として目を付けたのが140兆円もの運用資金を有する年金積立金である。それまで投資先として安全とみなされていた国内債券を縮小して国内外株式への投資幅を運用全体の24%から50%に倍増した。この巨額のGPIF資金を証券界では「くじら」と呼んでいる。

 どんな運用をしているか。アナリストの末沢豪謙氏は「海外投資家は1年間で日本株を5兆1000億円売ったが、GPIFはその半分近くを買っている。GPIFが買わなかったらさらに株価は下がっており、株価上昇につながらなくても下支え効果は大きい」と分析する(30日付『毎日』)。

 何のことはない、日本株を買って大儲けした外国ヘッジファンドが利益を確保するために売り抜けた穴を、おれたちの年金積立金で埋めていたのだ。政府やGPIFは「短期の損益が多少へこんでも受け取る年金には影響が出ない」と強弁するが、問題の本質はそんなことではない。

 例えば投資先の筆頭は国内ではトヨタ(1兆5499億円)、国外ではアップル(6025億円)だ。いずれも世界を股にかけて稼ぎまくる超独占企業だ。おれたちはそんな連中の企業資金のために年金を積み立てたのではない。即座に年金積立金の株式運用を止めていただきたい。