戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)トランプ氏の米大統領候補指名に思う 16/07/22

明日へのうた]より転載

 米大統領候補として共和党の指名を受けたトランプ氏の思想は間違いなく右翼である。それなのに労働者・労働組合の支持があるというのが理解できなかった。トランプ指名を報じる21日付『毎日』が、おれの疑問に答える解説記事を書いている。「白人不満層が支援」「労組 民主からくら替え」。

 トランプ氏が共和党候補の座をつかめた一因は「労働組合への食い込み」だという。背景には米製造業の没落と失われた職や低賃金の実態がある。「今までずっと民主党に投票してきた。俺らのような労働者階級の味方だと思っていたから。悲しいけどくら替えする」(オハイオ州トランブル郡の電気技術者)。

 トランブル郡は製鉄と自動車部品生産の拠点だった。ところが1970年をピークにして製鋼工場は徐々に閉鎖し、自動車部品メーカーはより賃金の安いミシシッピー州や国外のメキシコ、中国に工場を移転した。最盛期に1万5000人いた自動車部品メーカーの従業員は数百人になってしまった。

 そんな中でトランプ氏は「工場を海外に移転する会社は罰する」とのスローガンを掲げた。過激で実現不可能に思える主張だが、閉塞状態の労働者には魅力的に映った。「トランプしかいない。政治を激変させなければいけない」(34年間自動車部品メーカーで働いて退職したメル・リドルさん)。

 トランプ氏は違法移民を防止するためにメキシコ国境に巨大な壁をつくると公言した。移民労働者や難民が国内労働者の職を奪い、賃金を切り下げているという主張は貧しい人たちの中に入りやすい。英国のEU離脱の論理もそうだった。しかしそれは事の本質を衝いた議論ではない。少なくとも労働組合が安易に取り入れるのは危険だ。歴史的に見ればナチス・ヒットラー時代に逆戻りしてしまう。

 日本ではどうか。トランプ氏と並んでもひけをとらぬほど右翼的な安倍晋三首相がなかなか人気が衰えない。選挙で「圧勝」する。もちろん、メディアが自民党の争点隠しに協力したためでもあるが、アメリカやイギリスと同じように「現状不満層」が「強い日本」に期待している心理も否定できない。

 いま都知事選の真っただ中だ。この選挙を「現状不満層を誰が、どんな政策で獲りこむのか」という観点から見る必要があると思う。「強い日本」を志向するトランプ的右翼陣営に負けるわけにはいかないからだ。