戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)日本で国民投票がやられたら 16/07/07

明日へのうた]より転載

 英国の国民投票でEU離脱が決まったことに世界がびっくり。改めて国民投票とは何ぞやという議論も起きている。当の英国でも投票結果が出てから、「うまく離脱派の宣伝に乗せられた」「緊縮策を押し付けるEUのあり方に不満があって離脱の方へ投票しただけなのに」という戸惑いの声が出ているようだ。

 国民投票というのは、国の大事な政策を選挙で選んだ代表に任せず、国民1人ひとりの声を聞いて決めるという点では一番民主主義的方法と思える。それはそうかも知れないが、国民投票にも意外な落とし穴があるような気もする。もし日本で同じようなことがあったらどうなるだろうと考えてみた。

 日本にも国民投票制度が法律として存在する。2007年5月に国会で成立した「日本国憲法の改正手続に関する法律」だ。2006年に政権についた安倍第一次内閣が、憲法改悪を視野に入れて強引に国会を通した法律だ(この時は安倍政権が参院選で惨敗して挫折したがいまリベンジを企んでいる)。

 この日本版国民投票法は1条で対象を「憲法改正」のみに限定している。憲法の規定によって国会の3分の2以上の賛成で発議し、80~180日の期間を経て国民投票が行われる。18歳以上の国民に1人1票の投票権が与えられる。投票総数の過半数の賛成で憲法改正が成立し、投票率は考慮されない。

 投票方法はあらかじめ印刷された「賛成」「反対」のどちらかに○をつける。他の記載があれば無効になる。公務員や教育者の地位を利用した投票運動は禁止・制限される。テレビ、ラジオのコマーシャル、新聞の意見広告などは投票14日前から禁止される(それまでは野放し・自由である)。14日間は、国会内に設けられた国民投票広報協議会が国費で広報や公平な賛否資料の作成・宣伝を行う。

 この国民投票法に自民・公明以外は全部反対した。ただし、新聞、テレビなどメディアの反応は鈍かった(新聞広告費やコマーシャル代が入ることを期待するからではないか)。

 英国の国民投票を見た上で問題点として特に指摘したいのは次の2点である。①投票が「賛成」「反対」の二者択一であること(英国の例でもわかるように、憲法というような大きなテーマは、あれかこれかで割り切れるような単純なものではない)、②投票14日前までは新聞、テレビ、ネットなどの宣伝が野放しだということ(金を持っている奴の物量作戦で国民の意思決定が左右されかねない)。いずれにしても現状の日本では国民投票など実施させないことが肝心だ。