戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)通じなかった「日本人だ。撃たないで!」 16/07/03

明日へのうた]より転載

 バングラティッシュのダッカでISによるとみられるテロ事件が起こり、日本人7人が殺された。新聞やテレビは「テロ事件の巻き添えをくった」と言っているがほんとに巻き添えなのか。日本人を狙ったということではないのか。少なくともテロリスト側に日本人なら許してやるという考えはなかったことは確かだ。その点で7月2日配信の『朝日デジタル』の記事が生々しい。少し長いが引用する。

「このレストランの隣に住む韓国系米国人の男性(61)は、1日午後8時40分(日本時間同日午後11時40分)ごろ帰宅した後に事件を目撃した。まず3~4人の男が『アラー・アクバル(神は偉大なり)』と叫び、空に発砲するのを見た。いずれもTシャツやジーンズ姿の20代前半ぐらいの若者で、片手にマシンガンやライフル、片手に長さ1メートルぐらいの刃物を持っていた。

 1人が門から店の敷地に入ると、すぐに近くにいた日本人男性が『私は日本人だ!』と英語で3回叫び、『どうか撃たないでくれ』と懇願していた。男たちは屋外席にいた客らに発砲すると、店内に入った。やがて到着した治安部隊との銃撃戦が始まり、テロリストが投げた爆弾で多くの警官が負傷し、叫び声が響いた。犠牲者の遺体が床に並べられ、『まるで地獄のようだった』と語った」。

 店にいた日本人は国際協力機構(JICA)の円借款事業で現地派遣されたコンサルタント会社社員だ。日頃からこのようなテロの場面に遭遇したらまず「私は日本人だ」と言えと教育されていたのではなかろうか。従来はそのひと言はかなり効果があったはずだ。ところが今度の事件では通用しなかった。

 何故なのか。原因はあの安保法(戦争法)にあるとしか考えられない。戦後71年、日本人は戦争で他国民を殺さず、殺されもしないで過ごしてきた。これは私たちが考えている以上に凄いことだったんだと思う。「日本人だ」と言うだけですべて安心だったわけではないが、命を守る大事な言葉だったことは間違いない。

 テロは卑劣な行為で許されるものではない。だがテロリストが「国家」を名乗って戦争を仕掛けているとしたらそれにどう対応するかはその国によって異なるのは当然だ。日本は「国の武力を使うことはしませんと」と世界に約束してきた。世界も日本の立場を理解し尊重してきた。その根本のところを戦争法はぶち壊してしまったのだ。今回のダッカテロ事件に関する安倍政権の責任は重い。