戸塚章介 (元東京都労働委員会労働者委員)広島刑務所脱獄囚の逮捕に思う 12/01/15

[明日へのうた]より転載

 広島刑務所から白昼堂々と脱走し、13日午後「逃走容疑」で逮捕された李国林受刑囚(40歳)。悪い奴には違いないだろうが、そのふてぶてしい面構えの中に権力への挑戦というか、一種の抵抗者の信念みたいなものが感じられる。新聞には(少なくとも『毎日』と『赤旗』には)出ていないが、彼は東京で暴力犯罪を繰り返している不良グループ「怒羅権(ドラゴン)」のリーダーだったという。

 以下ネットで調べたこと。――「ドラゴン」は中国残留孤児の2、3世が中心のマフィアグループ。1988年に江戸川区葛西で結成された。04年から05年にかけて9都府県の郵便局やパチンコ店で現金約6800万円を盗んだ。車上狙い500件の犯行も。李はそれらにリーダー格で加わる。

 李は殺人未遂などの罪で08年から服役しているが「ドラゴン」はその後も、例えば昨年4月、文京区湯島で通りかかった男性2人を「肩が触れた」と因縁をつけナイフでメツタ切りにしている。男性2人は意識不明の重傷。暴力団に暴行を加え耳をそぎ落としたことも――。とにかく大変な凶暴集団である。

 おれはこれらの犯罪を繰り返した李や「ドラゴン」を弁護する気はさらさらないが、やはり「中国残留孤児の子孫」というのが心のどこかで引っかかる。

 この新年から「開拓者たち」というテレビドラマが日曜日ごとに4夜連続で放映されている。敗戦で命からがら逃避行を続ける母親が、男の子を「必ず連れにくるから」と親切な中国人のもとへやるシーン。一緒に逃げていても命の保障はない。せめてわが子だけは生き延びてほしい、という親心。おれの引き揚げ対験と重ね合わせて涙が滲んだ。他にも「売られた子」「奪われた子」「捨てられた子」がいたはずだ。

 敗戦直後日本政府は満州滞留160万の同胞に対して「現地で食いつなげ」という趣旨のの通達を出した。日本は食料が枯渇しているからいま帰ってこられては迷惑だ、というわけ。この日本政府の方針のため、満州からの引き揚げは1年間延ばされた。そのためにどれほどの人が死んだのか、とれほどの子どもが「残留」しなければならなくなったのか。脱獄囚や「ドラゴン」を凶悪犯と決め付けるのは簡単だが、その犯罪の大元まで遡って考えると、そう簡単に割り切れる話ではないとおれは思う。