戸塚章介 (元東京都労働委員会労働者委員)浅田次郎「活動写真の女」「天切り松闇がたり」11/09/17

[明日へのうた]より転載

 いずれも集英社文庫。「天切り松・・・」の方は「闇の花道」「残侠」「初湯千両」「昭和侠盗伝」の4巻に分かれている。例の電車図書館で読むには最適の小説だった。

 まず「活動写真の女」だが、物語の舞台は70年前後の京都。「学園(大学)紛争」華やかなりし頃の話。主人公が撮影所のアルバイトに行く。そこへ35年前に首吊り自殺した大部屋女優が現れて・・・。ストーリーの面白さはもちろんだが、おれが興味をもったのは、映画産業が衰退し撮影所がテレビに乗っ取られていくところ。それを浅田次郎がどんな目で見ていたのか。

 撮影所が経営難になってアルバイトたちにも「自宅待機」命令が出る。アルバイト学生たちは深刻な表情で話し合う。「組合がごたごたするからあかんのや。早うからテレビに下駄をあずけて降参すれば、こないなことにならへんかったのとちゃうか」――これが「反合闘争」への世間的な反応なんだろうか。

 「天切り松・・・」の主舞台は関東大震災直前の東京。世に言う「大正ロマン」花盛りの時代だ。浅田次郎は天切り松こと松蔵の口を借りて胸のすく啖呵を吐かせる。「軍人が幅を利かせて、あれもなんねえ、これもなんねえって、世間を真っ黒に塗り潰したのア、支那との戦がおっ始まった昭和12年からこっちのこった。震災前のあのころア、言わずと知れた軍縮の時代で、世は大正ロマンのまっ盛り・・・」(そういえばおれの誕生は昭和12年だ)

 振り返ってみよう。1920年(大正9年)労働者のストライキ、小作争議多発、5月、上野公園で第1回メーデー。21年7月、三菱造船所で3万人のスト。22年7月、日本共産党結成・・・。

 松蔵の言うように、おれなんかも「戦前の社会は軍国主義に塗り潰され、すべて暗黒の時代だった」と決めつけがちだ。ところがよく考えてみると、「大正ロマン」というか「大正リベラリズム」というか、そんな「自由」を謳歌した時代があったのだ。日本の将来に、自由・平等・個人の尊重といった理想を描こうとした人々がいたのだ。その中心にいたのが労働組合だったような気がする。

 19日に「さよなら原発」集会が明治公園で開かれる。おれも参加するつもりだ。