戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

最低賃金の大幅引き上げを 19/03/13

明日へのうたより転載

 以前から問題になっていたことだが、最低賃金の地域格差が改めて政治課題になっている。今年4月からは外国人労働者の受け入れ拡大が実施される。昨年の改正入管法の国会論議でも「賃金の高い都市部で働きたい」というのが技能実習生が失踪する原因ではないかとの議論がなされた。自民党の有志議員が最低賃金額を全国どこでも東京の水準に合わせる論議推進のための議連を近く発足させる予定だという。

 最低賃金は地域格差も大問題だが、その絶対額の低さも無視できない。一番高い東京でも時間給985円だ。これでは1日8時間、月20日間働いて月給15万7600円、年収189万1200円にしかならない。相変わらずワーキングプアだ。これでは結婚もできないし、結婚しても子どもは無理だ。「今すぐ1500円の最低賃金を」とエキタス(最低賃金の引き上げを求める青年の自主組織)は叫ぶ。

 アメリカでも最低賃金引き上げをめぐる労働者のたたかいが政界に反映して熱く燃え上がっている。3年前の米大統領選で健闘したバーニー・サンダース議員が、最低賃金引き上げを求める政策を打ち出し議員の署名運動を始めた。190人の下院議員が署名し、31人が15ドル最賃法の共同提案者になった。

 2024年までに最低賃金を15ドルに引き上げるという法律案が米議会下院に上程され教育労働委員会を通過した。同委員会のスコット委員長は「15ドルの引き上げにより、全国4000万人の労働者の賃金と生活水準が向上する。賃金水準の向上が、コミュニティに還元されることで米国経済を刺激する」と発表した。今後本会議にかけられるが、下院を通過することは間違いないだろうと言われている。

 15ドルと言えば日本円で1700円弱、月額27万2000円、年収326万4000円になる。これでも労働者が満足な生活を営むには少ないが、現状からは飛躍的な前進である。この最低賃金引き上げについては保守派の間から「生活費や産業の状況が州によって異なる。政府が管轄すべきでない」との声も出ている。また「貧困層が減少するものの失業者が増えるだろう」と予測する調査機関もある。

 アメリカは来年大統領選挙の年だ。最低賃金引き上げを主張するサンダース議員とそれを支持する労働者層の動向が注目される。日本はこれから4月に統一地方選、7月に参院選が行われるが、外国人労働者も含めた低賃金層の生存権確保を賭けた最低賃金引き上げへの論議をもっと強め広げていく必要があるのではないだろうか。