戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

米朝会談のホスト国ベトナムの明暗 19/03/02

明日へのうたより転載

 3月1日付の毎日新聞は「米朝非核化合意なし」「北朝鮮制裁解除要求」「トランプ氏『協議継続』」と「合意に至らなかった」米朝会談の記事で1面の大半を埋めた。前日とは打って変わった仏頂面のトランプ、金正恩2人の写真。どうやら「成果焦り米の油断」(秋山信一記者)があったらしい。

 そんな米朝会談関係の記事の中で注目されるのは、3面の「金言」(西川恵客員編集委員)と8面の西脇真一ハノイ特派員の署名記事である。いずれも今回の米朝会談の場所を提供したベトナムに関する話だ。場所を貸しただけでなくホスト役としても名を挙げた表の面と、ドロドロした暗い面が語られる。

 西川氏は「国際社会で存在感と威信を高める格好の機会になった」「ベトナムの急速な地位向上はすでに言われていることだが、今回、ホスト国となったことでそれを証明した形だ。ベトナムにとっては対米関係を強化し、北朝鮮に発展モデルを示しと、得るところが大きかっただろう」と評価する。

 一方西脇特派員の記事は暗くやるせない。「金正男氏暗殺事件から2年」「『助けてと言いたいが』ベトナム人被告の父複雑」。西脇特派員がインタビューしたのは、「クアラルンプール国際空港で正男氏が猛毒のXVガスで殺害された事件で」逮捕されたドアン・ティ・フォン被告の父親ドアン・バン・タインさん。「娘がそんなことをするとは思わない。100%無実を信じている」と言い切る。

 「ベトナムと北朝鮮は伝統的な友好国だが、事件後、関係は冷え込んだ」。それが今回金委員長の入国を受け入れ、歓迎した。ベトナム側にいろんなメリットがあるからだ。金正男氏暗殺事件には触れてもらいたくない。西脇特派員がタインさんの取材を始めて数分後、地元の公安当局者に妨害されたという。

 ドイモイ路線で市場経済に舵を取り、アメリカ資本を受け入れた。その結果国家経済は著しい成長を遂げた。しかしベトナム国民がその恩恵を等しく受けているかというとそうではないだろう。労働条件の劣悪な日本に仕事を探してやってくる青年たち。貧困と格差の拡大が社会問題になっているのではないか。

 金正男氏暗殺事件に関与したとしてマレーシアで裁判を受けているフォン被告の育った境遇もそんなベトナムの暗部と無関係ではないだろう。果たして「発展のモデル」として北朝鮮に誇れるのだろうか。