戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

このところ正恩氏はモテモテだが 19/02/10

明日へのうたより転載

 「事前に再度実務者協議」「ハノイで米朝再会議」(10日付『毎日』2面)「露、正恩氏と会談模索」「プーチン大統領 関係拡大狙う」(同7面)。このところ北朝鮮の金正恩さんは大国首脳からモテモテだ。ついこの前まで世界中からつま弾きされていたのがえらい変わりようである。

 つま弾き男からモテモテ男に変身するにはよほどの事情があったはず。確かに正恩さんの顔つきがだいぶ柔和になった気もするが、言ってることはそれほどの変わったとは思えない。大国側の事情の変化と見る方が正しいだろう。そこで毎日新聞の記事に沿ってプーチン大統領の思惑を探ってみた。

 「プーチン氏としては金委員長との関係を築き、中国も含めた友好関係をアピールする狙いがあるとみられる」。「(友好促進の背景には)ロシア国内で働く北朝鮮労働者の問題がある」「(安保理決議に基づいて北朝鮮労働者の雇用を減らしたが)ロシア国内の森林や農場、工場で勤務し貴重な労働力となってきたことから、本音では早期の制裁解除を望んでいるとみられる」。

 一方アメリカのトランプ大統領は今年年頭の一般教書演説で「金正恩委員長との会談前進」を活動成果の一番にあげ、世界の鼻つまみを手名付けた手腕を誇らしげにぶち上げた。「大胆な新しい外交の一環として、朝鮮半島の平和に向けた歴史的前進を続ける」「私が大統領になっていなければ、北朝鮮と戦争になっていたと思う」(7日付『毎日』)。ここまで言うかと思うほどの自画自賛である。外交、内政ともに糞詰まりのトランプ大統領が最後の突破口にしようとしている。それが見え見えなのだ。

 このように大国首脳が金正恩朝鮮労働党委員長に親しく接するのはそれぞれに思惑があってのことだ。ま、どんな思惑があろうと戦争より話し合いの方がいいに決まっている。だから正恩氏がトランプ氏ともプーチン氏とも膝を接して話し合うことはいいことに違いない。

 しかしトランプ氏が米朝会談で進めようとしている「朝鮮半島の非核化」はそう簡単に実現するとも思えない。第一自分では核兵器を持ち、核拡散防止条約から脱退しておいて「お前は核を捨てろ」と言っても説得力がない。つまりトランプ氏の思惑はいつ外れるか分からない。プーチン氏も自国の都合に合わせて正恩氏を手名付けようとしているだけだ。正恩氏のモテモテ状態は薄氷の危うさだとおれは思う。