戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

「賃上げは団交で」というなら望むところだ 19/01/23

明日へのうたより転載

 経団連の「春闘」方針が発表された。「脱『官製』鮮明に」「経団連 ベア重視見直し」(23日付『毎日』1面)「ベアより『働き方』重視」「経労委報告 経団連、自主性求め」「賃上げ維持正念場」(同経済面)。「安倍『官製春闘』破たん」「経労委報告 賃上げ抑制強調」(23日付『赤旗』)。

 『毎日』によれば経労委報告は「賃上げは政府に要請されて行うものではない」という主張で始まるという。『赤旗』はこれを「賃金抑制の主導権を財界・大企業が握る考えを強調。安倍政権のアベノミクスでは賃上げを実現できず、『官製春闘』が破たんしたことが明瞭になりました」と解説する。

 賃上げは政府要請でなく団交で決めるものだ、という考え方自体はおれもその通りだと思う。労働条件は労使が対等の立場で決定するもの(労基法2条)だからだ。こんな当たり前のことを資本の側から説教されなければならない。今の労使の力関係を映し出していると言わざるを得ない。

 確かに『赤旗』が言うように「官製春闘の破たん」には違いない。しかし、破たんさせたのは誰かというと残念ながら労働側でなく財界だ。経営者の総本山なのだ。彼らが労働者の生活と権利を守る立場に立っているとは到底思えない。官製春闘のいいとこどりでこれまで来たが、「もう政府の助けなんかいらないよ」という宣言が今回の財界の「春闘」方針なんだと思う。居丈高方針と言ってもいい。

 ではここまでコケにされた労働運動の側はどうするのか。もちろん黙っているわけにはいかない。資本の側が政府の手を借りずに団交での決着を望むのなら、こちらも総力を挙げて迎え撃つしかない。少なくとも政府にすがって賃上げをしてもらうなんていう姑息な考えは止めた方がいい。

 それにしても総評の勢いがあった時代は、春闘報道はまず労働組合の動向を探ることから始まった。それぞれの単産の春闘臨時大会にはたくさんの取材陣が集まったものだ。いざストライキにでもなれば新聞は1面トップで報じた。確かにあの頃は「労使対等の団交」があった。

 「賃上げ 最賃アップ一体に」「全労連の評議員会始まる」「〝30年の歩みに確信〟」(23日付『赤旗』)。経団連の居丈高な姿勢には、労働者の団結で対抗しようではないか。団交は労働組合の側の権利だ。「団交を通じた賃金決定とはこういうものだ」と経団連に思い知らせようではないか。