戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

勤労統計不正は統計法違反の犯罪だ 19/01/20

明日へのうたより転載

 「統計法違反摘発 高い壁」「厚労省不正調査問題」「故意立証必須/立件過去2件」(19日付『毎日』)。厚労省による毎月勤労統計の不正調査問題を統計法の視点から取り上げており、興味深い。まず聞きなれない「統計法」とはどんな法律なのか。「第二次大戦中に政府に都合のいい統計が作られたため、1947年に『統計の真実性の確保』を目的に制定され、統計の作成方法などを規定した」。

 政府の基幹統計を管轄する総務省や菅義偉官房長官は、今回の問題は「統計法違反に該当する可能性がある」と表明。「承認した内容と異なる方法で調査し、変更の承認も受けていない」からだ。ただし、この内容の違反はルールには反するものの罰則には抵触しないという。ではどんな違反なら抵触するのか。

 そこで統計法そのものに当たってみた。あった。第60条である。
 第60条 次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処す。
  2項 基幹統計の作成に従事するもので基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為をした者

 それでは今回の不正調査は「真実に反するものたらしめた行為」に該当するのか、しないのか。検証してみよう。不正・不適切の指摘を受けているのは、東京都が対象企業の全数でなく抽出調査で済ませた行為である。全数調査となっているのに3分1だったのは「不適切」には違いない。

 しかし調査対象を無作為抽出していたら、予算案を組み替えるほどの差はでなかつたのではないか。つまり無作為ではなかったということになる。何らかの意図によって対象企業を偏って選んでいたことになる。この間の報道によれば「賃金の高い東京の大企業のデータが少なかった」ことが明らかだ。

 実態より賃金水準が低くなるよう仕組まれ、それが雇用保険や労災保険を削る根拠になった。言葉を替えて言えば雇用保険等を削る目的で不正な調査手法がとられたということだ。そんな不正が現場の判断でできるわけがない。上からの指示・命令があったはずだ。「上」というのは厚労省上層部だけだろうか。

 このように見てくると、今回の「不正調査」は、国家権力による統計法60条に該当する犯罪行為と言われても仕方ないのではないだろうか。政権中枢の責任が問われるのは必然だと思う。