戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

政府主張鵜呑みの徴用工問題『毎日』社説 19/01/11

明日へのうたより転載

 「『政治争点化賢明でない』」「韓国大統領、日本批判」(11日付『毎日』1面)「日韓 溝さらに深く」「徴用工、レーダー照射、慰安婦・・・」「韓国は先送り戦略」「日本『深刻な状況』」(同3面「クローズアップ2019」)。韓国の文在寅大統領が10日の新年記者会見で「両国の知恵を合わせて解決しようと考えているが、日本の政治指導者たちが政治争点化し、問題を拡散するのは賢明な態度ではない」と日本側の対応を批判し、「状況を見守ってから判断しても良いではないか」と述べたという。

 この文発言に同日付『毎日』社説が噛みついている。「文大統領の徴用工発言」「政治のリーダーが解決を」。見出しの文言は穏やかだが中身は挑戦的だ。「(文大統領の言うように徴用工問題が)植民地時代の歴史問題である」なら「これを精算したはずの65年体制をどう考えているのか」と畳みかける。65年の日韓条約ですべて清算されているという日本政府の態度を丸呑みした論法だ。

 この「清算済論」の前提に立って『毎日』社説は、「日本側が求めた請求権協定に基づく政府間協議に応じるかどうかについて答えなかった」と不満を鳴らす。日本政府が求めた協議なるものをどうみているのか。要するに、韓国政府は韓国最高裁を黙らせろということではないか。文大統領が「韓国にも三権分立が存在する」と法治国家としての当たり前の原則で反発するのは当然の話だ。

 日韓の間でいろんな問題が生じていることは事実だし、徴用工問題は当該企業の資産差し押さえにもなっている。いろんなレベルの話し合いが必要なことは論を待たない。しかしその話し合いというのは、司法の決定に沿って、死ぬ苦しみをさせられた元徴用工たちの名誉回復をどう図るかの観点で行わなければならない。遠い昔のことだとか、政府間協定があるとかの理由で個人の尊厳を傷つけるべきでない。

 同じ11日付『毎日』24面には「元徴用工に手帳交付へ」「在韓被爆者 長崎市、控訴せず」の見出しで、戦時中三菱重工長崎造船所で働いていた3人の韓国人に長崎地裁の判決に従って被爆者手帳を交付することにしたと報じている。「国との協議が整えば」としている点がちょっと心配だが。

 最後に『毎日』社説に戻るが、「(文大統領は)南北関係改善に集中するあまり、対日関係を後回しにしているようだ」との文言はあまりにも酷い。「ゲスの勘繰り」と言われても仕方ない言い方だ。