戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

経団連の官製春闘お断り宣言に思う 18/12/21

明日へのうたより転載

 「経団連、賃上げ目標削除」「経労委報告案 官製春闘に嫌悪感」(20日付『毎日』1面)「春闘 中西流前面に」「指針案 労使主導鮮明に」(同6面)。経団連が19年春闘指針案の中で、18年春闘で政府要請通りの数値を入れた方針を削除することにした。官製春闘お断りというわけだ。

 『毎日』記事によれば、今年5月に就任した中西宏明経団連会長は当初から賃上げについて「政府の過度な介入」をけん制してきたそうだ。今回の報告案にも「賃上げは経営側と労働側の折衝だ」との明確な姿勢が出ている。指針には「『官製春闘』と呼ばれることへの嫌悪感」も書き込まれる見通しだ。

 「賃上げは労使の団体交渉で決める」というのは憲法28条の精神から言って正論だ。労使の力関係で決まるのが本筋だ。政府が口出しする問題ではない。労基法第二条にも「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」と明記されている。

 安倍政権は財界に対して「業績が改善している企業は報酬の引き上げなどの取り組みをしてほしい」(14年)「3%の賃上げが実現するよう期待したい」(18年)などと毎年要請してきた。来年は10月の消費税増税による消費落ち込みが想定される。例年以上に賃上げを要請したいハラだろう。

 さらに安倍政権にとっては、このところの支持率低下を取り戻す人気取り政策としての意義も大きい。「安倍首相にとって官製春闘による賃上げの実現は『政権のわかりやすい大きな手柄のひとつ』(経済官庁幹部)」(『毎日』)というわけだ。確かに職場には「安倍首相に給料上げてもらった」との声もある。

 今回の経団連の方針転換は、安倍政権にとって冷水を浴びせられたようなものだ。経団連としては消費税増税という政府の施策の尻拭いをさせられるのはご免という気持ちもあるのではないか。

 それにしても情けないのは労働組合である。これだけ賃上げを巡る記事があるのに労働組合の姿は見えない。連合が何を考えているのかなんてことは問題にもされない。官製春闘にどっぷり浸かって、たたかうことを忘れた連合に誰も何も期待しないということか。これでは経営者にも舐められるばかりだ。

 『毎日』の同日付紙面には「ベア要求額公表せず」「春闘でトヨタ労組」の記事も。そもそも「統一闘争で賃金の底上げを」という春闘方式の全面否定だ。ああやんぬるかな。ただ嘆くのみである。