戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

マクロン抗議の仏デモで思い出したこと 18/12/05

明日へのうたより転載

 「フランス各地で燃料税引き上げなどに対する抗議デモが激化し、逮捕者やけが人が相次いでいる」(5日付『毎日』)。毎週土曜日、黄色いベストを着た群衆が街角に集まり「マクロンは金持ちの味方」などと叫んでいる。11月17日には全仏で29万人が参加して道路を封鎖したりなどしたという。

 「1日にパリであったデモでは一部が暴徒化。シャンゼリゼ通り周辺は、治安部隊が放った催涙ガスやデモ隊による放火で発生した煙に包まれた。412人が拘束され、治安部隊23人を含む133人が負傷した」。パリ警視庁のデルプエシュ警視総監は「前例なき極度の暴力行為」と非難した(『毎日』)。

 今回のデモにCGTなどの労働組合はからんでいないようだ。『毎日』記事も「主催者不在の仏デモ」と分析している。しかしデモのきっかけがマクロン大統領の反労働者的政策への反発であったことは間違いない。マクロン大統領は9月、企業が労働者を容易に解雇できるよう労働法改正を強行した。さらに国鉄改革や法人税減税などの企業・金持ち優遇の政策も実施。労働者の不満が高まっていた。

 パリのデモと言えばおれは20年前、パリメーデーに参加したしたことがある。震え上がるような寒い日だったがCGTのデモ隊はお祭り騒ぎだった。トラックに乗った楽団の先導、演奏するのは軽快なデキシーランドジャズ。ピエロに扮した労働者。沿道のアパートの窓から手を振る市民。平和的風景だ。

 デモの途中で小便をしたくなり、トイレがあるという路地へ入った。びっくりしたね。武装した警察隊が待機している。何を警戒しているのだ。用を済ませて隊列に戻りしばらくすると、ゲバラのTシャツを着た若者が突然騒ぎ出した。発煙筒から猛烈な煙。ワインをラッパ飲みしていたデモ隊員がやおら「インターナショナル」を歌い出した。おれたちの周りではそれに呼応する動きはなかったがしばし行進はストップした。

 警察隊の出番まで行かず騒ぎは収まったが、こんな平和的なデモが一瞬で暴徒化する可能性を持っていることにおれは戸惑った。これがフランスの国民性なのだろうか。そう言えばメーデー会場までくる地下鉄の社内で、何やら演説をして生活資金のカンパを募っている失業者がいた。CGTの幹部の説明では失業者が200万人、不安定雇用も拡大しているという。労働者は怒っているのだ。

 「黄色いベスト」の記事を読んで20年前のパリメーデーを思い出した。あの時のCGT幹部は今どうしているだろうか。