戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

イタリアは10時間以上の運転禁止だよ  18/08/27

明日へのうたより転載

 「ハンドルクライシス 倒れる運転手たち」のタイトル。『赤旗』の連載企画。26日の第一回は「12日間連続勤務繰り返し」「宮城交通バス事故」「運転手不足 無理なやりくり」の見出しで、「4週間で281時間超という過酷な勤務の末、運転中に意識を失い死亡した宮城交通の運転手=当時(37)=」の事例を取り上げている。この事故は14年3月3日午前5時に起きた。

 「仙台市から石川県の加賀温泉に向かう26人乗りの宮城交通(仙台市)の夜行バス。北陸自動車道の蓮台寺サービスエリアで運転手が交代して100キロになるころからバスはガードレールに衝突を繰り返しました。そしてバスは小矢部川サービスエリア(富山県)に進入。休憩のため駐車していたトラック2台に衝突して止まりました」。運転手と乗客1人が死亡、24人が重傷、2人が軽傷を負った。

 『赤旗』に運転手Aさんの2月1日から3月3日までの勤務表が載っている。それによると、拘束10時間以上が18日で休みは3日しかない。ドライブレコーダーには「うなだれたように頭を下げた状態で座る」Aさんが写っていたというが、過労による心神喪失であることは明らかだ。

 この勤務表を見ていて思い出したのは3年前に行ったイタリアのナポリからシチリア島への旅行だ。シチリアに入って5日目、あちこち見学して午後7時にシチリア最大の都市シラクーサに着いた。部屋に荷物を置いただけで7時20分ロビー集合。海岸べりのレストランで夕食だ。レストランまではバスで行った。

 おいしい海鮮料理と白ワインで宴席は盛り上がった。さて帰ろうとしたらホテルまでの1.5キロは歩くしかないという。運転手さんもレストランで食事しており、同じホテルに泊まる感じなのに何故バスは駄目なのか。女性ガイドの説明によると「イタリアの運転手は労働時間が1日10時間までと決められている。今朝10時に出発したから8時までしか運転できない」ということなのだ。

 道案内は当の運転手さん。彼もワインを飲んだらしく陽気に鼻歌などうたう。初夏のシチリア・シラクーサの海岸、海から届く夜風に頬をなでられながら気分満点だ。20分ほどでホテルに着いて運転手さんに握手で感謝。「明日も安全運転でよろしくお願いします」。その後おれの部屋に集まって「反省会」と称してワインをがぶがぶ飲んだのは言うまでもない。労働者が大切にされている国ってやはりいいよな。