戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

爆風(91) 18/05/31

明日へのうたより転載

 部隊の中で医療班の果たす役割は他に増して大きい。引揚者は女子どもが過半数であり、病人、妊婦もいる。過酷な移動条件を克服して日本まで送り届けなければならない。遼陽市日僑善後連絡所は46年6月9日付で次のような「遣送事務室通達」を出した。

1、大隊医療班は医師1、医学生2、看護婦1、を以て構成する。過剰の要員を附せざること。但し患者遣送を開始せば班員を増員することも之は別途指示す。

2、医療班長は成るべく早く分処主任並びに大隊長と緊密なる連絡を取ること。

3、分処主任若しくは大隊長は大隊出隊2乃至3日前に医療班長をして隊員の健康診断を施工せしめ普通旅行に耐えざる患者特に伝染病患者を除外すること。従って出発駅に於いて伝染病患者若しくは旅行に耐えざる患者を発見されたる場合は分処主任、大隊長医療班長の責任とす。

4、分処主任は少なくとも出発3日前に大隊救急薬格納用函を総処衛生科に持参し薬品並びに格納薬品一覧表の配布を受け厳重に保管すること。上記配布薬品は己に四拾以上の検査経験ある品目にして不合格の憂なきものに付き此の活用を維持する為医療班長の私見により薬品の加除は行わざること。従って検査の際不合格を出したる時は医療班長の責任とす。

5、医療班長は出発前衛生科医療股に出頭赤十字旗並びに班員の赤十字腕章を受け取ること。其の他の手続きは一切分処主任並びに大隊長に於いてなすこと。

6、医療班長は自己の出発により診療所閉鎖となる場合は接収品目録作製の上少なくとも3日前に統一接収委員会衛生組に届出て且つ鍵の授受等につき打ち合わせること。

7、医療班長は出発の際聴診器1、検温器1、メス1、ピンセット1、剪1を携行すること。

8、医療班長は大隊編成決定後は大隊隊員の保健事故を防止するため特に健康診断をなし生活指導により伝染病患者発生防止に努力すること。

9、予防注射は種痘、発疹チフス、腸チフス、コレラの四種にして総処及び分処に於いて施工するも医療班長は大隊隊員の予防注射の結果を確認し予防注射未了者の皆無を期すこと。

10、瀋陽総站収容所収容中の診療は収容所医療班に於いて施工するも大隊付き医療班は之と緊密なる連絡をとり且つ可能なる範囲の協力をなすこと又、収容所収容中の清潔整頓に関し指導をなすこと。

11、列車内に於ける保健事故の処理は困難なるが故に其の方法に付き医療班長は大隊長と事前に打ち合わせを了し其の要領を中隊小隊長に周知せしめること。