戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

戦後続いた労働体系を壊させてなるものか 18/04/09

明日へのうたより転載

 「高プロ争点に攻防へ」「働き方改革 閣議決定」(7日付『毎日』1面)「労働時間の拡大懸念」「緩和と強化抱き合わせ」「上限規制骨抜きの恐れ」「与党に会期延長論 追及覚悟で成立狙うか」(同3面「クローズアップ2018」)。「安倍晋三首相は今国会を『働き方改革国会』と位置付けており、与党は働き方改革関連法案の成立に全力を挙げる」。

 同日付の社説も「働き方改革」だ。タイトルは「残業時間の規制が原点だ」。要旨をまとめると次のようになる。「当初の予定が遅れたのは厚労省のデータに不自然な数値があったためで、結局裁量労働制の拡大は削除された。若い世代が安心して働くためには残業規制が重要。ところが法案は高プロなどの残業規制外しが組み込まれた。残業規制と規制緩和が同じ法案であることに無理がある。まず残業規制という原点に立ち返って議論すべきだ」。この主張は間違ってはいないがいかにも甘い、とおれは思う。

 今年2月、安倍首相が法案の根拠とした厚労省データがズサンな代物だったと叩かれて、裁量労働制の拡大という法案の一角が崩れた。その時一番悔しがったのが経団連(財界)だった。つまり財界にとっては裁量労働制とか高度プロフェッショナル制度とかはかねてからの宿願だったのだ。

 日本の働き方を律する労働基準法は時間管理が基本である。何時間働いて何ぼの賃金というのが原則なのだ。週40時間とか週休2日とかの労働時間規制は、財界にとっては搾取の限界が法律で決められているということであって我慢ならない。「企業利益にどれだけ貢献したから何ぼ」の賃金体系、つまり「成果」を基準にした新しい労働基準を設けたい。安倍首相の働き方改革は財界の意向そのものなのだ。

 「働くだけ働かされて、つぶされるのではないか」と40歳代のコンサルタント業務の男性は危機感を抱く(『毎日』)。「多忙な時期に睡眠が1~2時間の日が続き、過労で倒れた経験かある」。この働き方は明らかに正常ではない。問題はこんな働き方が高プロ制度によって法律のお墨付きをもらえることだ。今必要なのは労働基準法の厳守であって財界の希望する「緩和」であってはならない。

 安倍首相や財界が狙うのは、戦後続いてきた労働基準を根底からひっくり返すこと、彼らの言葉を使うなら「改革」「革命」なのだ。こちらも腰を据えて対決しようではないか。特に労働組合の奮起を促したい。