戸塚章介 (元東京都労働委員会労働者委員)労働争議の和解にはいろんな選択肢がある 10/07/29

[明日へのうた]より転載

 建交労から指名解雇された鈴木信幸さん(のぶちゃん)の東京地裁民事13部での和解が大詰めを迎えている。次回9月2日の第4回協議で不調になる可能性もある。建交労側は「原職復帰」についてかたくなに拒んでおり、担当の裁判長も「金銭解決」にこだわり続けている。「職場復帰もありうる」という選択肢を初めから切り捨てていることが話し合いがかみ合わない原因になっている。

  おれは都労委時代いろんな公益委員と一緒に仕事をした。学者、弁護士、文化人などだ。弁護士の中には元裁判官や退任後最高裁判事になった人もいた。たとえば、「日本テレビ」や「芝信用金庫」など大型事件の和解を成立させた古山宏さんは元高裁判事、塚本重頼さんや橋元四郎兵さんは都労委時代は弁護士だったが、退任後最高裁判事になった。

  一番長く付き合ったのが古山さん。豪放磊落を絵に描いたような人だったな。宴会になると渋いお座敷芸をやるし、一緒に何度もマージャンをやったりした。「細川活版所」や「山水電気」など難しい事件で労働者側を勝たせる救済命令を出した。単に労働者の味方とかいうのでなく、優れたバランス感覚を持っていたんだろうな。

  偉そうなことを言って申し訳ないが、裁判官にとってバランス感覚というのは基本的資質だと思う。しかし、バランス感覚はともすれば現実論の枠内に思考を封じ込める作用ももたらす。労使関係というのは、思いもかけない可能性に満ちているものだ。労働争議の和解は労働者が納得しなければ成立しない。それを労働者のわがままと決め付けるのでなく、素直に耳を傾ける姿勢が必要だ。

  スペースが尽きたので実例は示せないが、解決の選択肢を広げることで思わぬ展開になった争議がいくつもある。鈴木信幸解雇事件も、「金銭意外に選択肢はない」という固定観念を打ち払うところから新たな解決への展開が生まれてくる可能性があると思う。裁判長をはじめ建交労側弁護団の再考を促したい。