戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

「制裁強化」で事態を打開できるのか 17/09/06

明日へのうたより転載

 相次いでミサイル発射、核実験を行った北朝鮮に対する「制裁」措置が強化されようとしている。「北朝鮮追加制裁を協議」「安保理 石油禁輸焦点」(5日付『毎日』)。「新たな制裁として検討される可能性のあるのは、北朝鮮経済に打撃を与える石油の禁輸や、北朝鮮の外貨収入源となっている派遣労働者の禁止や削減、北朝鮮産の縫製品の禁輸などが挙げられる」。さらに取引企業への制裁強化も検討されている。

 「石油禁輸」という新聞の見出しを見て、なんとなく既視感に襲われた。76年前の1941年7月、アメリカは日本への石油全面禁止に踏み切った。帝国主義国家日本は37年7月に蘆溝橋事件を引き起こし、対中侵略戦争を本格化させた。これに対してABCD包囲網と呼ばれる共同戦線がつくられた。

 ABCDとはアメリカ、イギリス、中国、オランダの頭文字を揃えたもので、4カ国が協力して中国侵略を進める日本への制裁を強めるシフトのことだ。アメリカは当初、他国への不干渉主義を採り、日本制裁に消極的だったが、41年に至って石油全面禁輸とともに在米日本資産の凍結を宣言した。

 日本軍国主義政府はこのアメリカの措置を奇貨として国民に危機感を煽り、12月8日の真珠湾奇襲、対米戦争に突入した。「米国の動向が日本の前進の妨害者である以上、そこには日米危機の到来もまたやむを得ぬ。日本国民はこの点につき非常な覚悟を持つ必要がある」(『毎日』社説・毎日社史より)。
 
 もちろん、当時の日本軍国主義と今の北朝鮮を同一視するのは間違いだ。日本軍国主義は東アジア諸国への侵略を狙っていたが、北朝鮮には侵略的意図はない。アメリカの軍事的脅威に対抗しているだけだ。しかし、国連安保理決議に従わずミサイルや核兵器を開発していいわけがない。

 そこでどのようにして北朝鮮を話し合いのテーブルに着かせることができるか、ということが課題になる。アメリカのトランプ大統領のように、軍事行動を準備したり、一国の指導者の「斬首作戦」を計画するのは論外としても、やはり経済的な制裁は必要ではないかという意見が圧倒的だ。

 しかし制裁は短期間には効果が出ない。ますますエスカレートする。その結果北朝鮮が「参りました。もう敵対行為は止めます」と頭を下げるだろうか。真珠湾の二の舞いにならないか心配だ。