水久保文明(JCJ会員 千代田区労協事務局長 元毎日新聞労組書記)

「ヘボやんの独り言」より転載 

元旦社説を読む②止   18/01/03

 読売の社説は、1面の4割近くを割く長さとなっている。これには驚いた。さらに驚いたのは、あの読売が改憲問題に一行も触れていない点だ。改憲大好き新聞社が、元旦社説でそれに触れないという摩訶不思議さに違和感を抱いた。

 見出しのサブタイトル「眠っているカネは政策で動かせ」という部分は、最初は賛同したが、読み進むうちに国民が老後のために蓄えているものも吐き出せということであることに気づいた。ちょっと待ってくれ、である。チ、ガ、ウ、ダ、ロー、である。

 「家計が保有する現金は、1年間で5兆円増えて83兆円となった。預貯金と合わせると25兆円多い943兆円だ。金融資産全体で83兆円増の1845兆円に達する。」と述べたあと、「民間企業の金融資産を合計すれば3000兆円」と言ってのける。

 なぜ家計の預貯金が増えたのか、その問題を深めることはスルーしている。いまの政治に不安を持っているからに他ならないことは明らか。そこを無視して、「旧来の常識にとらわれず、眠っているカネを動かす大胆な政策を展開すべきだ」という。返す刀で「消費税は、2019年10月に10%とした後、さらなる引き上げが必至だ。」と畳みかける。家庭のフトコロに手を突っ込め、というのである。論外だ。

 平和問題については「北朝鮮による緊張が高まっている。広島型の10倍を超える威力の核実験を行い、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した。」といつものように危機感をあおる。そのうえで「自衛隊と米軍の連携を深め、ミサイル防衛を着実に増強すべきだ。」と軍事大国化を提案している。これが新聞か、と言いたくなった。自民党の言い分そのものではないか。読売らしい。

 東京新聞はたまたまだろうが、毎日と同じように伊藤博文を引き合いにしている。民衆の力の大切さを説きながら「維新をじかに体験してきた伊藤は、民衆の知恵も力も知っていたにちがいないと思うのです。……維新後、各地にわき起こった自由民権運動とは、その名の通り人民主権を求めました。」としながら、当時の日本には民主主義を求める欲求は広がっていたと言う。

 そのうえで、憲法問題に触れて「〝押しつけ〟などという政治家もいますが、国民多数は大いに歓迎しました。」と強調。さらに(戦後)「世界視点で見れば、……人間の自由権・参政権・社会権。つまり国家優位より個人の尊重。長い時と多くの犠牲を経て人類はそこまで来たのです。」と人間中心の政治が進められてきたことを説いている。が、これに中東紛争やかつてのベトナム戦争をオーバーラップさせたとき、必ずしも頷くことはできない。

 一方で日本の民主主義について「格差という問題があります。……資本主義のひずみは議会のつくる法律で解決すべきだが、残念ながらそうなっていない。」と嘆いている。格差の現実を認識したところまではいいものの、その解決策を示していない。あえて言えば「社会はつねに不満を抱えるものです。その解決のために議会はある」と言い、格差社会の解決は議会でおこなうべきだと強調している。これではまだ、まだ不十分である。

 以上、社説の概略を見てきたが現在の重圧感、閉塞感についての具体的な解決策を示しているのは、残念ながら自民党の政策を焼き直したと思われる読売の社説だけだった。これはいったいどうしたことか。3日以降の紙面で展開されるのかもしれないが、不満鬱積の元旦社説群であった。

★脈絡のないきょうの一行
箱根マラソン、青山学院大学が4連覇。1回の優勝でもすごいのに、これは凄いぞ。


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