水久保文明(JCJ会員 千代田区労協事務局長 元毎日新聞労組書記)日弁連の死刑制度廃止提案を考える③ 16/10/11

「ヘボやんの独り言」より転載 http://96k.blog98.fc2.com/

 この福岡事件の石井健治郎被告は1989年12月、仮釈放を認められ熊本刑務所を出所。石井氏はこの時72歳。拘禁期間は42年となっていた。その後、支援者らとともに死刑になった西武雄さんも含めて再審運動を続けたが、2008年11月に91歳で死没している。

 福岡事件の概要について紙数を費やしたが、再審請求が認められることなく死刑執行によって〝殺された〟事例として紹介したかったからだ。死刑判決を受けて、えん罪であると主張しても刑が執行されれば、その人の人生は権力によって強制的に閉ざされる。今後、誤判が起きないという保障はなく、同様のことが繰り返される恐れは否定できない。

 昨年10月、「名張毒ぶどう酒事件」の被告・奥西勝(おくにしまさる)さんは無実を訴えながらも獄死した。再審の審理はつづいているが、こういう悲劇を繰り返してはならない。1966年に静岡県清水市で発生した、袴田事件の被告・袴田巌さんは、2013年3月に再審が決定され死刑台から帰ってきたが、刑が執行されていたら……。言わずもがなである。

 日弁連の「宣言」は「死刑制度を存続させれば,死刑判決を下すか否かを人が判断する以上,えん罪による処刑を避けることができない。さらに,我が国の刑事司法制度は,長期の身体拘束・取調べや証拠開示等に致命的欠陥を抱え,えん罪の危険性は重大である。えん罪で死刑となり,執行されてしまえば,二度と取り返しがつかない。」と警鐘を鳴らす。

 そのうえで「宣言」は「死刑を廃止するに際して,死刑が科されてきたような凶悪犯罪に対する代替刑を検討すること。代替刑としては,刑の言渡し時には『仮釈放の可能性がない終身刑制度』,あるいは,現行の無期刑が仮釈放の開始時期を10年としている要件を加重し,仮釈放の開始期間を20年,25年等に延ばす『重無期刑制度』の導入を検討すること。ただし,終身刑を導入する場合も,時間の経過によって本人の更生が進んだときには,裁判所等の新たな判断による『無期刑への減刑』や恩赦等の適用による『刑の変更』を可能とする制度設計が検討されるべきであること。」と対案を提起している。

 確かに日本の刑罰には、恩赦を受けることのない「終身刑」はない。重犯による刑期の加算、たとえば「懲役250年」のような制度もない。死刑制度を廃止するとすれば、そういう考え方の導入も必要ではないのかという提起でもある。

 それでは、被害者・遺族の立場に立った場合、どう考えればいいのだろうか。肉親を殺された人たちの思いはいかほどか。その悲しみや実行犯に対する怒りはどこに持って行けばいいのか。「犯人を極刑(死刑)にしてほしい」という気持ちをどう受け止めればいいのだろうか。次にその問題を考えてみたい。(次回につづく)

★脈絡のないきょうの一行
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