水久保文明(JCJ会員 千代田区労協事務局長 元毎日新聞労組書記)日弁連の死刑制度廃止提案を考える② 16/10/10

「ヘボやんの独り言」より転載 http://96k.blog98.fc2.com/

 「宣言」は国際社会の死刑制度に関する動きを紹介している。死刑を廃止あるいは事実上の廃止国は、140か国。2014年の死刑執行国は25か国。OECD(経済協力開発機構)加盟34か国のうち死刑を定めているのは日本、米国、韓国の3か国だけ。

 しかもそのうちの韓国は刑の執行を18年以上停止しており、事実上の死刑廃止国となっている。アメリカでは50州のうち18州が死刑制度を廃止し、3州の知事が死刑執行停止を宣言、死刑執行は15年で6州のみ。国連でも14年12月の69回総会において、「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」決議が117か国の賛成によって採決されている。これに日本は反対を表明した。

 これら一連の流れは、死刑制度の廃止が世界の流れであることを証明しているという。その理由として①死刑判決にも誤判の恐れがあり②刑罰としての死刑にその目的である重大犯罪を抑止する効果が乏しくなった――などを挙げている。

 誤判による刑の執行があったとしたら、取り返しのつかないことになる。「福岡事件」というのをご存知だろうか。

 1947年5月、福岡市で中国人と日本人の2人の闇ブローカーが殺害された事件。警察は西武雄さん、石井健治郎さんら復員軍人8人を逮捕。この事件では西さんと石井さんの死刑が確定した。

 石井さんは射殺したことは認めたがあくまで正当防衛を主張していた。石井さんは殺された2人と喧嘩の現場に行き合わせ、相手がピストルを出そうとしたので、身の危険を感じて撃ったと主張。

 西さんの方は闇取引の内金10万のうち2万円の取引手数料を残し、残金の8万円を持って帰ったことは認めたが、殺人現場には訪れておらず、7人で謀議したこともないと主張しつづけた。

 裁判では、1948年2月に福岡地裁は石井・西両氏の主張を認めず死刑判決。他の仲間は1人が無罪となったが、4人には懲役3年6ヶ月から15年が言い渡された。控訴審は1951年4月に棄却。4人は下獄、西さんと石井さんのみが上告した。1956年4月、最高裁は上告を棄却、死刑が確定した。

 二人は5回にわたって再審請求をおこなったものの、すべて棄却。この再審請求の特殊性は、他に犯人がいるのではなく石井被告自身が射殺を認めたものの、正当防衛であったことを主張した点にある。

 1969年7月、当時の西郷吉之助法相は廃案となった再審特例法に代わるものとして、「恩赦を積極的に運用する」との見解を出した。これに基づいて1975年6月、「他の共犯者に比べ刑が重すぎ、しかも改悛の情が明らか」として石井さんは個別恩赦決定、無期懲役とされた。

 が、不思議なことに同じ日、西さんの死刑が執行されたのである。西さんには「改悛の情がない」とされたのである。西さんは朝に執行を知らされると、取り乱すことなく「そうでしたか」と言い、煙草をうまそうに1本吸って刑場に向かったという。この事件はもしかしたら、無実の人が死刑台に送られた可能性がある。(次回につづく)

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