水久保文明(JCJ会員 元毎日新聞労組書記 千代田区労協事務局次長)経営労働政策委員会報告「2010年版」を嗤う 10/02/16
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「ヘボやんの独り言」より転載 http://96k.blog98.fc2.com/
きょうは節分。「①季節の移り変わるとき、すなわち立春・立夏・立秋・立冬の前日の称。②特に立春の前日の称。この日の夕暮、柊(ひいらぎ)の枝に鰯の頭を刺したものを戸口に立て、鬼打豆と称して炒った大豆をまく習慣がある」(広辞苑)。鬼を退治してしっかりまめを食べて、健康になりましょう。
日本経済団体連合会(以下、経団連)が毎年春闘前に出している「経営労働政策委員会報告」(以下、報告書)が、1月19日に発表されました。いつもは前年の12月に発表されており、1月にずれ込んだのはめずらしいことで、何かあったのかと感ぐってしまいます。それはそれとして、この報告書はあいかわらずで、労働組合の立場から見ればこの方針に反対してたたかえば要求が取れる、という分かりやすい内容ではあります。従って、長年労働運動をやってきた私にとって、この報告書は春闘時のアンチ〝バイブル〟でもあります。
この報告書を以下、ちょっとだけ嗤ってみようと思い立ちました。
大局的に見て経営者一般がそうですが、まったく「総括」がないまま新たな提言をする、という特徴をもっています。リーマン・ショックによる痛手の認識は一致しますが、なぜそういう事態が起きたのかについての記述はありません。GDPが中国に追い越されるのではないかいう認識も一致しますが、その原因については触れられていません。ことほど左様にこの報告書はこの間の総括が行われないまま、目の前の「課題」をどうするかという点だけに集中しています。私はこういうことを『課題意識はあるが問題意識がない』と批判することにしています。
個別に見てみましょう。まず、「序文」です。「また、激動の時代にこそ、企業倫理のあり方を徹底的に見つめ直すとともに、勤労・勤勉の価値観、企業内労使協調による生産性向上など、わが国企業の強みに磨きをかけていきたい」と鼻息が荒くなっています。これは実はすごいことを言っています。経団連のいう企業倫理は、経営基盤を強化するために人を減らし、内部留保を増やすことにあります。それを今以上に徹底しようというのです。つまり、労使協調をさらに強めることで生産性を向上させることを言い切っているのです。
その上で「労使は交渉相手ではあるが、企業の存続・成長、従業員の生活向上という共通の目的に向って協働するパートナーでもある。労使が互いの立場を尊重し、信頼関係を深めつつ、それぞれの企業に最も適した課題について徹底した議論を尽くしていくことを心から願ってやまない」と結んでいます。これは早い話しが、労使協調路線の強要です。序文でこう言っているということは、この報告書全体が何を示唆しているか、お分かりでしょう。(次回につづく)
★脈絡のないきょうの一行
えっ! 小沢一郎さん不起訴方針だって? この間のメディアの大騒ぎは何だったの?
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報告書の第1章は「日本経済を取り巻く環境変化と経済成長に向けた課題」、第2章は「雇用の安定・創出に向けた取り組み」、第3章は「将来の成長に向けた取り組み」、そして第4章は「今次労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢」――となっています。
第1章で、報告書は中国と韓国の半導体のシェア拡大を気にしています。さらに重要なのは「新興国経済の急速かつ力強い発展に伴い、原油やレアメタルなどの資源需要も大幅に拡大しており、将来的に価格の高騰など、資源確保に支障が生じ、ひいてはわが国企業の国際競争力に影響を及ぼすことも懸念される」としていることです。
この数行、何気に読み飛ばしてしまいそうですが、大変危険な側面が隠されていることを見逃してはなりません。お気づきにならなければ、もう一度読み返してください。原油などの高騰が予想され、日本企業の国際競争力を維持するために『憲法9条を変えて海外派兵をする必要があるのだ』というニオイが行間に漂っているではありませんか。この意識、単に嗤える問題ではなさそうです。
国民の個人消費低迷の原因について①急速な高齢化と人口の減少②社会保障制度への不信感③国の財政への不安――などを上げています。それを脱却するために、補正予算と来年度予算の早期成立を図り、政府・日銀(の介入)による為替相場の安定・デフレ克服を求めています。政府を活用して自らの経営発展に利用するという考え方、マルクス経済学的には「国家独占資本主義」といいますが、まさにそのものです。
加えてなんと「税制についても、国際的にみて高止まりしている法人実効税率を引き下げるなど、内外からの投資を促進し、経済成長力の強化に資するような体系を確立することが求められる」としています。図々しく、法人税をもっと下げろといっているのです。消費税が導入されて以降、法人税は下げられつづけてきました。むしろ私たちは内部留保を増やすことに汲々としている大企業に、もっとまともな税金を支払わせるべきだと主張してきました。それに真っ向から対立しています。(次回につづく)
★脈絡のないきょうの一行
トヨタのリコール、国際問題に。原因は派遣・非正規切りによる技術水準低下では?
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次に第2章の雇用問題をみてみます。報告書は全体で69ページにわたっていますが、この部分に25ページと一番紙数を割いており、〝重視〟していると思われます。そのなかの雇用の現状について「主要先進国が軒並み高い失業率を記録するなか、不況が最も深刻なわが国で相対的に失業率が低位にとどまっているのは、官民が一体となり、雇用安定に向けてさまざまな取り組みを実施してきた結果といえる」としています。これはもう嗤いを通り越して馬鹿馬鹿しくなってきます。
この1行を個別に反論するとキリがありませんので一つだけ。本当に官民が一体となって雇用安定に取り組んできたでしょうか。派遣・非正規雇用労働者のみならず正規雇用者まで切り捨てたのは、誰だったのでしょうか。職ばかりでなく住むところも追われたその人たちを路頭(上)に放り出したのは、誰だったのでしょうか。やっと昨年から今年にかけて行政が重い腰を上げましたが、「年越し派遣村」をつくり対策を講じたのは誰だったのでしょうか。
不気味なのはさらに「経営環境が混迷を深めるなか、やむを得ず雇用調整に踏み切らざるを得ない状況が発生することも予想されるが、そのような際には法令遵守はもとより、就労先確保や社宅などの提供をはじめとした、離職者に対する最大限の配慮が求められる」と述べていることです。この問題、改めてこのような形で記述するまでもなく経営者として行うべき当たり前のことです。それを敢えて書かざるを得ないということは、『法令違反』が蔓延しているからにほかならず、そのことを経団連も認識している証拠ともいえます。
若年者の雇用は深刻になっていますが、この問題への〝対策〟はお粗末そのものです。「若年雇用の促進に向けた施策が政府により数多く展開されており、(それを活用すれば)将来を担う優秀な人材を確保することが可能」、「第二の就職氷河期の到来が懸念されるなか、中途採用や転換制度を積極的に活用しながら、人物本位で若者に採用の門戸を開いていくことが大切である」とも述べています。このあとに政府に対する雇用対策の要望が縷々述べられていますが、自らの方針は残念ながら見当たりませんでした。自らは血を流すことはせず、税金を使わせる「政府の施策頼み」が報告書の本音といえそうです。(次回につづく)
★脈絡のないきょうの一行
「引退」と「不起訴」。メディアは踊っているが、得したのは朝青龍と小沢一郎のどっち?
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非正規雇用労働者が全体の3割を占める原因は規制緩和の行きすぎだった、という批判がありますが、これに対して「80年代半ば以降、『非正規労働者』は、労働関連法制の改正の有無に関係なく一貫して増加傾向を示しており、規制緩和が主たる要因であると断定することはできない」と反論しています。
そのうえで雇用多様化の背景に①第三次産業、とりわけサービス業の成長②女性や高齢者など多様な主体の労働市場への参画の高まり③労働者の働き方に対する意識の変化④企業側の要因として製造業を中心とした国際競争の激化――をあげています。
なにをかいわんや、です。いちいち反論するのも時間の無駄のような気もしますが、非正規雇用労働者の増加は、それしか働く道がないから増えているのではありませんか。派遣労働を非製造業にまで広げたことによってそれが加速しているのも事実です。雇用多様化の『労働者の意識の変化』もしかりです。規制緩和によって労働者は意識を変えざるを得なかった、それが数字に表れているだけではありませんか。原因に言及することなく、結果だけを見て論じるこの手法、あの人たちの得意とするところのようです。
派遣法の改正問題に関して登録型派遣について「登録型派遣を禁止することは、迅速な人材確保や多様な働き方など企業側、働く側双方のニーズへの対応などを考えた際、労働市場に混乱をもたらしかねないことが憂慮される」、「とりわけ、製造業派遣の禁止については、国際競争が激化するなか、生産拠点・体制の見直しに伴う雇用への影響も懸念される」と述べています。すなわち報告書は、登録型派遣と製造業派遣の禁止には反対なのです。
この雇用問題の章では、雇用保険制度や職業紹介機能の強化などについても触れていますが割愛します。次にこの項で触れている最賃問題の記述をみてみます。全国一律最賃制について「地域経済の実態や地域間の差異を反映しない『全国最低賃金制度』導入を進められた場合、現行の審議会方式の維持は困難と言わざるを得ない。現行方式は極めて合理的なもの」と述べて、地域最賃は認めながらも全国最賃を否定しています。これは私たちの方針と真っ向から対立するもので、軽視できません。(次回につづく)
★脈絡のないきょうの一行
キリンとサントリーの統合計画が挫折。持ち株比率の不統一が原因らしいが、やはりカネか……。
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第3章の将来へ向けた取り組みでは、人材育成問題とワーク・ライフ・バランス問題を中心に展開しています。この項目は割愛させていただくとして、私が興味を持ったのは従業員の心身の健康・安全の確保について言及している部分です。62ページにわたる記述のなかでこの1ページの一部は同意できました。
「近年、メンタルヘルス不全の従業員が増加傾向にあるため、従業員自身、管理監督者、事業所内外の産業保健スタッフが連携し、例えば、労働安全衛生法で定められている、月間所定外労働時間が一定を超えた場合の産業医による保健指導を徹底するほか、出退勤日々の言動の変化から、メンタルヘルス不全の兆候を見逃さず適切に対応するなど、予防体制を確立していく必要がある」。
「メンタルヘルスの維持・増進にあたっては、日々のコミュニケーションの充実を図る一方、管理職に対するマネジメント能力の向上、長期労働の是正などが求められる。ただし、中小企業では、人員面、コスト面で対応が難しいこともあることから、メンタルヘルス不全者の相談機能の周知・充実などについて政策支援を図る必要がある」という配慮もみられます。メンタルヘルス不全に陥る原因としてのパワハラやセクハラなどの防止策に触れていないという弱点はあるものの、ここで述べられているようなことが実践されるよう、監視を強めたいものです。
報告書の最後は、今年の労使交渉に関する経営側の基本姿勢を述べています。この項目が私たちにとって重要問題になるわけです。「賃金より雇用重視」がここでは主眼になっていますが、それは次回に触れることにし、私がアレ! と思ったのは家族手当への言及です。「本年6月より子ども手当の支給が始まる予定だが、子の扶養に係る費用を国全体で従来の制度をはるかに超えて負担しようとする政策転換は、賃金の生活給的性格を弱め、仕事の対価としての性格を強める必然的な効果をもたらすことから、個別労使が賃金や諸手当のあり方について考えるきっかけになるものといえよう」としています。
少々、分かりづらい表現になっていますが、国全体が子ども手当を支給することになれば、賃金における家族(子ども)手当の存在意義が薄れることになり、その必要性を論議すべきだといっているのです。すなわち(さすがにそこまでは書いていませんが)、将来的に賃金のなかの子ども手当(家族手当)の廃止を示唆しているのです。企業の「出るカネを少なくする」というこの対応の早さはみごとです。(次回につづく)
★脈絡のないきょうの一行
小沢一郎金脈の元金庫番・石川知裕衆議院議員が民主党を離党。それで世論をかわしたつもりか。
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このブログ、2008年2月からスタートしてきょうは365回目。2年で365回ということは、2日に1回の割りで更新したことになります。いつも読んでいただいている皆さんと、千代田区労協のホームページとこのブログの管理をしていただいている小林さんに改めて感謝です。ありがとうございました。ひきつづいて応援、お願いいたします。
経営労働政策委員会報告批判のつづきです。どうもあの人たちは、子ども手当(家族手当)を廃止する方向で考えているようですがこれはとんでもないことです。賃金は労働の対価であることは、報告書がいうまでもなく当たり前のことです。にもかかわらず、形を変えて『手当』で対応してきたのは経営者だったではありませんか。
つまり、いわゆる本給部分を上げると退職金や時間外賃金の単価に反映することもあり、手当という姑息な手段で〝賃上げ〟をやってきたのです。にもかかわらず、国が子ども手当を常設すると言ったとたん、「(手当は)賃金の生活給的性格を弱め」るなどと、ぬけぬけといってのけるのです。こういう誤魔化しを看過してはなりません。
報告書は「今次労使交渉・協議では、いわゆる『非正規労働者』を含めた全労働者を対象に、賃金や福利厚生などの待遇改善についても争点になることが想定される」と、強調していますがこれは大当たりだと思います。この考え方を言い換えると「労働組合は正規雇用労働者だけでなく、非正規問題にも言及してくるから、その準備をせよ」ということです。経営側のこの〝期待〟に労働側はきちんと応える必要がありますし、〝ポーズ〟だけに終わらせず実のある交渉にしなければなりません。
経団連は相変わらず『賃金より雇用』を強調しています。企業が雇用を大切にする方針を明確にすることは①生活面での安心を生み出す②モチベーションを維持・向上させる③仕事に積極的に取り組む原動力となる④組織への忠誠心やチームワークの醸成につながる⑤中長期に企業の競争力をさらに高める基盤となる――と当たり前のことを述べていますが、そこで働く労働者を信用しない思想が露わになっています。同時にこの間、自らが派遣切りなどを行ってきたことの反省は一言もありません。
以上、何点かにわたって報告書を考えてきましたが、この経団連の考え方と私たちはやはり全面対決していくしかなさそうです。「雇用だけでなく賃上げも」というたたかいこそがある意味、雇用をも確保していく道につながるという歴史に学び、しっかりスクラムを組んでいきたいものです。
★脈絡のないきょうの一行
バンクーバーで冬季五輪開催。競技が始まったがやはり世界のカベは厚い。