水久保文明(JCJ会員 千代田区労協事務局長 元毎日新聞労組書記)「第九」三昧」 11/12/27

 

「ヘボやんの独り言」より転載 http://96k.blog98.fc2.com/

 23日の天皇誕生日は、二つの「第九」を愉しみました。

 まず、労音が主催して上野文化会館で行われた演奏会に、カミさんと出掛けました。事前に満席になった、と聞いていましたがそのとおりで、開演時間になると会場の席は埋め尽くされました。

 私たちが座ったのは、1階のほぼ真ん中の席。昨年は前のほうでしたが、今年はロケーションが非常によろしい。この会場は3階席で聞く音がいい、と言われていますが合唱団員や楽団員の顔の見える場所もいい。

 演奏は日本フィルハーモニー交響楽団。この楽団はかつて、フジテレビを相手に争議をたたかいました。もう25年になるでしょうか。楽団員の大半は卒業し、当時の争議を知っている人は半分近くになったといいます。歴史はそうやって塗り替えられていくのです。それでも当時たたかった、知っている顔がちらほらと登場するとほっとします。

 指揮者は1980年カナダ生まれのケン・シェさん。カナダでピアノや打楽器を学び、日本の学校で指揮課程を修了しています。あまり知られていないようですが、最近、日本各地で演奏活動をつづけ注目をあびているといいます。ソリストはソプラノ・佐竹由美、アルト・杣友恵子、テノール・田中豊輝、バリトン・キュウ・ウォン・ハンの面々。合唱団は「2011東京労音第九合唱団」。

 ご承知のように、この曲は合唱団が登場したあたりから本格化します。歌声とオーケストラのハーモニーはみごとです。一瞬「合唱が楽器に勝っている」と感じました。気のせいだったかもしれませんが、合唱が前に出てきて演奏が後ろにあるように聞こえたのです。この第九は何回もナマで聞いているのですが、こんな印象を持ったのは初めてでした。会場の座った位置も関係しているのかもしれませんが、不思議なことです。

 演奏が終わっても拍手は鳴りやみません。「ブラボー」の掛け声もあちこちから聞こえてきます。なぜかこの瞬間は身体中が熱くなります。この感覚を感じるために、観客は第九を聞きに、いや音楽会に集まるのではないかと思ったりもします。CDやレコードではこの雰囲気を味わうことは決してできません。

 合唱団のなかには元日本テレビのMさん、千代田区役所に勤めているKさんがいますが、客席からやっと同定できました。いつもより輝いて見えます。一つのモノを形づくることのすごさや喜びが伝わってきます。拍手は、なお鳴りやみませんでした。

 会場を後にして、例年のごとく上野の「アメ横」を歩きました。威勢のいい売り子の掛け声を聞きながら、正月用のマグロの刺身を買い込み自宅に急ぎました。そして、家でもう一つの「第九」をみました。(次回につづく)

★脈絡のないきょうの一行
指導者亡き北朝鮮の動き、少し気になる。目が離せない。

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 二つ目の「第九」はこの日の午後、TBSが「1万人の第九」を放送することになっており、上野文化会館への出がけにビデオをセットしておき、帰ってきてからこれを見たことです。夫婦でこのように長時間一緒にいるというのは、旅行以外にはなく久しぶりのことでした。

 番組は大阪の第九演奏と、東日本大震災の被災地・仙台の演奏を同時に行うという試みで、指揮者・佐渡裕(さどゆたか)を中心に描かれていました。佐渡は、被災各地で演奏を続けています。なかでも、子どもたちでつくった「スーパーキッズ」の活躍がすばらしい。子どもたちが生き生きと演奏する様は、心休まるものがありました。

 東日本大震災の被災者が語っていました。「海が真っ黒になって、そのためだろうが空も真っ黒になった……」――その恐怖は痛いほどわかるような気がしました。それに応えようと、佐渡は観客ではなく「海に向かった演奏会」を開きます。バイオリンの音色は、優しく静かに海に響きます。まるで、海に消えた人々への鎮魂歌のように。

 佐渡は、大阪の1万人の「第九」と、仙台の「第九」が合体できないかと考え実行に移します。名取市出身の声楽家・森公美子も仙台の合唱団に入り協力します。森はあの津波にのみこまれ、未だに行方不明の友人が勤めていた名取第一中学校を訪ねます。教室で森は、音楽の素晴らしさを力説します。熱心に聞き入る子どもたちの目は輝いていました。

 大阪は1万人、仙台は200人。佐渡の指揮で始まりました。すごい。遠く離れていても、音に狂いはありません。汗の玉が光る佐渡の顔は、いまにも泣き崩れそうです。クライマックスは、見ている者をクライマックスに追い込みます。最後に振り下ろされた指揮棒は、大阪と仙台、そして聴視者をみごとなまでに一体化させました。

 「音楽のちから」という言葉があります。私はそれを信じます。阪神淡路大震災のときにも、前回報告した日本フィルの仲間たちは楽器を持って被災地を回りました。それは、形に見えないものですが、間違いなく被災者の心を温めてくれました。言葉や物では表しきれない「力」を音楽は持っていると思います。

 年末の「第九」演奏会に出かけることは、わが家の年中行事となっています。ナマの音楽と合唱を聞き、過ぎゆく年を静かに振り返る、平和の中でそんなことがつづくことを願ってやみません。

★脈絡のないきょうの一行
東京電力第一原発事故調査委員会、中間報告で東電と国の原発管理を厳しく批判。当然。