水久保文明(JCJ会員 千代田区労協事務局次長 元毎日新聞労組書記)「いのち 五分五分」 11/06/24

 

「ヘボやんの独り言」より転載 http://96k.blog98.fc2.com/

 最近、登山やアウトドアを専門とする山と渓谷社から「いのち 五分五分」(税込み1,890円)という本が出版され、店頭に並び始めました。著者は山野井孝有(やまのい たかゆき)さん。山野井孝有さんは私(たち)の大先輩ですが、同時に登山家・山野井泰史さんの父親でもあります。この本の価値と凄さは、登山家本人やルポライターではなくその家族が書いたところにあります。

 息子を山に送り出すたびに「もしかしたら、これが別れになるかもしれない」という、思いと〝恐怖〟がつきまといます。本の題名に、やや奇をてらった感がないわけではありませんが、『登山家の息子(46歳)と自分(79歳)のどちらが先に死ぬかは、五分五分』というのが著者の弁です。

 最初の部分を紹介しましょう。

                         ◇=◇=◇
  「おやじ、『今度こそ死ぬのではないか』と思っていただろう。おれはおやじの雰囲気からそんなことを感じた。おれも少しやばいなと感じていたが、出かけたんだ」――。

 2009(平成21)年秋、ヒマラヤ遠征から帰ってきた泰史とこんな会話を交わした。泰史のこのつぶやきのようなひとことを聞くと、二ヵ月前の8月19日、成田空港での胸を締めつけられるような出来事が蘇ってきた。

 いつものように、ヒマラヤに出かける前夜は私の家に泊まる。しかし泰史の態度からは、これまでのような挑戦前の「ワクワク、ドキドキ感」が感じられなかった。空港でも同じだった。ギャチュンカン事故後初めての大岩壁挑戦は、二年後の中国・ポタラ北壁だったが敗退し、さらに一年後にはようやく成功した。ポタラ北壁で敗退した時も成功した時も、挑戦者の泰史からは「ワクワク、ドキドキ感」が私にも伝わってきた。しかし今回は、「決めたことだから行く」という雰囲気が感じられて仕方がなかったのだ。

 そんな時、いきなり泰史が立ち上がって私たち三人にカメラを向けた。泰史が空港で私たちにカメラを向けたことはこれまで一度もなかった。
                          ◇=◇=◇

 続きは本で読んでください。このときの写真はこの直後に著者から送られてきて、私の家のパソコンにストックされています。確かに、長年つきあっている登山家・山野井泰史の顔は珍しく緊張しています。それを即座に読み取った著者は、さすがに父親です。

 福島第一原発事故で、東電は津波の高さが「想定外だった」と弁明しましたが、登山家にとっての「想定外」は即、死を意味します。だから、山野井泰史には想定外は存在せず、持てる全ての叡智を使って遭難と対峙し生還してきました。その凄さみたいなものを、一番身近な父親の目を通して書いています。そして、泰史さんの連れ合い妙子さんへの思いもまた温かく伝わってきます。

 仲間うちで、山野井さんのこの本を応援しようということで呼びかけ人を募って宣伝を広げています。私もそのなかの一人です。連絡いただければ送料込み1,890円で送らせていただきます。サインつきで代金は現物と一緒に振込用紙を同封します。隠れたベストセラーにしたいと思っています。ぜひお読みください。

★脈絡のないきょうの一行
「放射能がなくても雨に濡れれば、体調は崩れます。雨には濡れないほうがいいですね」と、放射線専門家の野口邦和さん。確かに。彼が言うから意味倍増。