河野慎二 /元日本テレビ社会部長・ジャーナリスト / テレビウオッチ(27)
テレビは洞爺湖サミットをどう報道したか 温暖化、投機マネー、貧困、G8は機能不全 08/07/18
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■グローバリズムの害に背を向け加速する首脳宣言
もうひとつの焦点は、暴走する資本主義、その象徴であるグローバル経済と投機マネーをどうコントロールするかという課題である。経済のグローバル化は、一部富裕国と貧困国との格差を拡大し、「ボトム・ビリオン」と呼ばれる10億人以上の最貧困層を生み出した。米国のサブプライム危機で行き場を失った投機マネーが、原油や食糧市場に流れ込み、ガソリンやコメ、トウモロコシなどの価格暴騰を引き起こした。
諸悪の根源とも言うべきこの問題に、G8首脳はどう対応したのか。G8首脳宣言では、世界経済について「経済の長期的な強じん性、将来の世界の経済成長に引き続き肯定的」と、楽天的というか、むしろノー天気な認識を表明した。
グローバル経済については、「グローバリゼーションは世界の経済成長の重要な推進力。すべての者にグローバリゼーションの恩恵をもたらすため様々な政治的、経済的、社会的な試練に取り組む」と宣言している。
株式市場や債券市場を食い荒らし、原油・食糧の価格暴騰を引き起こす巨額の投機マネーの主要な側面は、世界規模で生活を破壊する病原菌のような存在だ。この悪性ウイルスを退治しなければ、地球自体の生存に影響が出る恐れがある。
洞爺湖に集まった首脳は、極めて遺憾なことに、この危機的な問題を正視しようとしなかった。むしろ、グローバリゼーションを加速する宣言にゴーサインを出した。これでは、機能不全を通り越して、犯罪的と批判されてもやむをえない。
■テレビ、グローバリズムを掘り下げる報道に消極的
テレビはこの実態をどう伝えたか。
7月7日、テレビ朝日「報道ステーション」は、「サブプライム発『危機の米国』」というミニ特集を組んだ。「すべての危機は米国のサブプライム金融危機に原因がある」という基本認識だ。
サブプライムの「震源地」といわれるカリフォルニア・ストックトンを取材する。ストックトンは、差し押さえられた家が全米トップの住宅地だ。食糧配給所には、「中流」家庭の人たちが押し寄せている。「マネーの猛威は巡りめぐって、アメリカ人の首を絞めている」と記者リポート。
これを受けて古館キャスターが「世界の首脳が、マネーに手を出せない。すべて市場任せにするしかないという現状がある」とコメント。
洞爺湖サミットに関連して、サブプライムや投機マネーを多少でも掘り下げた番組は、私が視聴した限り、この「報ステ」だけである。それ以外は、G8の発表をそのまま伝えるだけの型通りのニュースと、投機マネーやグローバル経済を散発的に批判する記者やキャスターのコメントのみだった。
NHK「ニュースウオッチ9」(7月9日)が、「原油価格高騰の一因とされる投機マネーについて、首脳会議は情報公開を進め透明性を高めることで一致したが、即効性のある対策は示せなかった」と伝えたのがその典型だ。他のテレビ局も大同小異で、こうした報道では問題の所在がさっぱり分からない。
問題は、投機マネーやグローバル経済について、なぜ踏み込んだ取材をしないのかという点だ。これだけ、世界経済に害をまき散らしている投機マネーについて、「情報公開を進める」だけというG8の宣言は、その驚くべき身勝手かつ貧困な認識という点でむしろニュースじゃないか。テレビメディアとして持って来いの取材ネタであるはずだ。
■「財務省、カジノ資本主義ひそかに検討」と日経報道
日経(7月10日)は、日本の財務省が「カジノ資本主義のあり方について」という討議テーマ案を内部でひそかに検討した事実を明らかにしている。「世界で大きく膨らんだマネーが実体経済を振り回す『カジノ型』のグローバル危機について踏み込んだ議論をしようと用意した」という。
結局このプランは「米国の反対で葬り去られ、日本の財務官をはじめ各国の通貨マフィアの姿は洞爺湖にはなかった」と日経は伝えている。
テレビはこうした動きにカメラの眼を向けることは出来なかったのか。「カジノ資本主義」で財務省が動いたというのは、ニュースではないか。テレビカメラでフォローすれば、NHKスペシャル「極秘交渉」に匹敵する取材が可能なはずだ。
洞爺湖サミットが終わって、サミット限界論、不要論が勢いを増している。日本テレビの「NEWS ZERO」(7月8日)でタレント出身の女性キャスターが「もうG8だけでは、重要なことを決められなくなっているんですね」とコメント。妙に説得力があったが、不要論が強まる所以だろう。
1975年にフランス・ランブイエで第1回サミットが始まって、今年で34回目。サミットを巨視的に見ると、ミルトン・フリードマンの新自由主義経済理論をベースに、G6(初期、現在はG8)の「金持ちクラブ」諸国が自国の国益を最優先として、世界にグローバリゼーションの枠組みを押し付け、ついに原油・食糧の価格暴騰にとどまらず、温室効果ガスの排出により地球の生存そのものを危うくするに至った歴史といえるだろう。
一例をあげると、2000年の九州・沖縄サミットは、「すべての人に対するグローバリゼーションによる利益を最大化するために創造的であり続ける」と宣言している。
グローバリゼーションに対する批判はますます強まっているのに、洞爺湖サミットはその路線をさらに加速している。
歴代G8首脳が敷き詰めた新自由主義のレールの上を、グローバル経済と投機マネーが暴走している。
■世界の市民、札幌で「もうひとつのサミット」開催
テレビはサミットの問題を継続して取材強化すべき
機能不全に陥ったG8に、最早地球の将来を託すわけにはいかないのは、誰の目にも明らかだ。
TBS「NEWS23」が7月7日、札幌で開かれたオルターナティブ・サミット、「もう一つのサミット」を取材した。世界各地からNGO市民組織が集まり、「G8主導の弱肉強食のグローバリズムに反対。G8だけでは決められない」と訴えた。
後藤キャスターのマイクに、スーザン・ジョージさん(フランスの市民運動家)が訴える。「G8は世界人口の14%を占めるにすぎないが、核保有国であり、軍事支出の4分の3を支配している。しかし、世界全体を反映している訳ではない」。
市民が求めているのは、G8が進めるグローバリゼーションではなく、地球規模で正義を実現するオルターナティブ・グローバリゼーション、「もうひとつのグローバリゼーション」である。
地球温暖化防止に対するG8の取り組む姿勢は極めて弱い。グローバリゼーションも投機マネーも、洞爺湖に集まったG8首脳は制御する意思を失っていると言わざるを得ない。「ボトム・ビリオン」もG8任せにしては解決しない。世界各地で、草の根から運動を盛り上げて行くことが必要だ。
テレビメディアも、サミット開催時に集中豪雨的に発表を伝えるだけの一過性の報道ではなく、継続的に取材を強化し、映像の訴求力を活かして、情報を的確に伝えてほしい。