河野慎二/ジャーナリスト・元日本テレビ社会部長/テレビウオッチ(51)テレビは福島原発事故を風化させるな―3・11を〝通過儀礼〟とせず継続取材強化を 13/04/08

テレビは福島原発事故を風化させるな

3・11を〝通過儀礼〟とせず継続取材強化を

河野慎二 (ジャーナリスト ・ 元日本テレビ社会部長)

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から2年が過ぎた。福島第一は、収束とは程遠い状況だ。事故原因の究明は全く手がつけられない。1、2、3号機は放射線量が高過ぎて、近づけない。それどころか、放射能汚染水がたまり続けて、福島原発内の貯蔵タンクはあと2年で満杯になる。東電は太平洋に放出する計画を持ち出している。これは海洋を放射能で汚染する、とんでもない犯罪行為で、国際的に許されない。

 ところが、安倍自民党政権は、こうした新たな危機に目を向けずに、原発再稼働に突き進んでいる。首相安倍晋三は3月6日の参院本会議で「安全と認められた原発は再稼働を進める」と言い切った。「2030年代に原発稼働ゼロとする前政権の方針は見直す」方針も重ねて明らかにした。安倍は、「脱原発」の民意に敵対し、自民党自身の失政が明白となった原発推進政策の復元を図るべく、時計の針を逆に巻き戻そうとしている。

 これに対し、メディアの報道はどうか。東京新聞など一部の新聞では、脱原発を継続取材しているが、大勢は腰の引けた報道姿勢が目につく。特にテレビは後述するように、東電の停電事故(3月19日)や福島県・浪江町の帰還困難地域などの区域再編(4月1日)など、事故や行政の動きをファクトとして伝えるだけで終わってしまう。脱原発に背を向ける安倍の政策について、批判的な報道は皆無に近い。

 毎日(3月25日)のコラムに、評論家の柳田邦男(政府事故調査委員)が「原発事故を風化させるもの」という原稿を寄せている。柳田は「被災者たちが恐れているのは、将来展望にかかわる課題が解決されないまま、原発事故の教訓が風化し、うやむやにされていくことだ」と指摘する。柳田は、①補償額の早期提示、②除染のスピードアップ、③帰還困難地域などの生活再建についての具体策提示、などが「うやむやにされている」と警鐘を鳴らしている。

 さらに柳田は「昨年6月に成立した『原発被災者支援法』は、政府の基本方針すら決めずに放置されている。被災者の補償への強力な行政指導もない。一方で、原発再稼働への水面下での動きが活発化している」と政府の対応を批判し、その上で「風化の風を起こしているのは、政治・行政ではないのか」と指摘している。

 柳田の原稿には、重要な部分で欠落がある。原発事故を風化させる「風」を起こしていうるのは、政治・行政だけではない。メディアも風化の「風」を起こす共演者の役割を果たしている。仮に安倍が時計の針を逆戻りさせようとしても、メディアが「原発ゼロ」に基軸を置いた取材・報道を続ければ、風化の「風」は起こらない。柳田の原稿は重要なポイントを見落とし、画竜点睛を欠く内容となっている。

 3月24日、TBS「サンデーモーニング」がこの問題に言及している。番組では、19日に起きた原発の長時間停電の問題や増え続ける汚染水タンクの劣化問題など、深刻なトラブルが起きているにも関わらず、「官邸前デモは、最盛期に比べて、参加者が減っている」。そして、「2030年代原発ゼロ」を見直すとした安倍の方針を、JNN世論調査で51%が支持(不支持は41%)、毎日の調査では56%が支持(不支持は37%)したと報道。安倍に有利な情報をことさらに強調している。

 キャスターの関口宏は「(原発事故を)忘れちゃいけない。風化させてはいけない」と強調するものの、コメンテーターの浅井信夫(国際政治学者)が「原発を動かそうとしている連中が、逆風を吹かせている」。同岸井成格(毎日新聞主筆)が「東電は徹底監視すべきだ。メディアの責任は重い」とコメントするのみ。岸井は、メディアの責任の中身には全く触れない。これでは、テレビが原発を風化させていると批判されてもやむを得ない。

テレビキャスターが福島原発事故4号機を現地取材
  原子力ムラからの逆風?気になる腰の引けたコメント

 原発「風化」とテレビの関係で気になるのは、東電がマスコミに公開した福島原発4号機取材とキャスターのコメントだ。3月8日、各テレビ局のニュースや情報番組のキャスターが4号機の事故現場を取材した。取材を終えたキャスターのコメントが、判で押したように腰の引けたものになっているのだ。その例を、テレビ朝日「報道ステーション」キャスターの古館伊知郎の取材とコメントに見てみよう。

 古館は8日、水素爆発で原子炉建屋が吹き飛んだ4号機の現場に入った。防塵マスクとヘルメットに厚手の防護服で身を固めた古館が作業用エレベーターに乗り込み4号機の屋上に立つ。「屋上には瓦礫が散乱しています。凄まじい爆発の跡が残っています」。「足元の金網の下に1533体の使用済み核燃料が冷却保管されているプールがあります。非常に心配です」などとリポート。足下のプールに使用済み核燃料が揺れる。

 5階から狭い階段を伝って、燃料プールの底の部分がある2階をめざす。古館「不気味な圧迫感がある。目の前に台車とか、設備がひしゃげて、そのままになっている。果たしてコントロールされているのか」。「2階に到着しました。燃料プールの底部です」。頭上には1533体の核燃料が置かれたままだ。「ちょっと線量の高いところがあります。早歩きで」と東電の説明員。古館「まだら状に高い地点がある」。

 4号機から140メートル離れた地点に、3号機の建屋がある。4号機と3号機の間に巨大な「衝立のような壁がある」(古館)。「被曝を避けるための遮蔽板です」と東電の説明員。3号機の放射線量は1時間1ミリシーベルト。短時間で死に至る高い線量だ。4号機が地震に耐えられるか。使用済み核燃料プールに被害は及ばないのか。古館が「今後地震が来ても大丈夫か」と東電の関係者に問いただすが、「ある程度、健全性は保っています」としどろもどろの答え。

 古館のリポートと映像を見れば、福島第一原発の事故が収束していないことは、一目で分かる。まして、メルトダウンした1~3号機がどうなっているか、全く分かっていないのだ。だが、驚かされたのは、古館のまとめのコメントだ。スタジオで古館は「1号機から3号機には、人は誰も入れない。不安を感じた」とコメントしただけだった。古館自身の現場リポートと映像が伝える4号機の惨状とは落差があり過ぎる。しかも、ピントがずれている。不可解なキャスコメが折角の取材を台無しにしている。

 他局のキャスターも古館同様に、及び腰のコメントに終始している。単なる偶然なのか。奇妙な一致だ。例えば、フジテレビ「とくダネ!」キャスターの小倉智昭は「なぜもっと慎重に原発を建てなかったのか」と当たり障りのないコメント。TBS「Nスタ」キャスターの堀尾正明は型通り現地取材のリポートをしただけで、コメントらしいコメントをしていない。キャスターは「原子力ムラ」を忖度(そんたく)したのか。それとも「ムラ」から逆風が吹いたのか。

■テレビは原発事故を「忘却」の彼方へ追いやるな
  3・11が過ぎても原発にこだわり掘り下げた報道継続を!

 もう一点懸念されるのは、3・11が過ぎると、テレビが福島原発事故の資料や取材メモを「忘却」という棚に綴じ込んでしまうのではないかということだ。3・11が経過するまでは、ある程度は報道する。しかし、3・11が終わると「喉元を過ぎる」。そうすると「熱さを忘れる」。3・11を「通過儀礼」として、以後原発事故を忘れてしまっては、テレビの責任は果たせない。テレビは原発事故を「風化」させず、継続的に取材すべきだ、以下二つの番組で、テレビ原発報道の現状と問題点を検証する。

 TBSの「報道特集」は3月9日、キャスターの金平茂紀が陸前高田市から、日下部正樹が気仙沼市から生中継し、東日本大震災と福島原発事故を振り返った。その中で金平は、福島第一原発の水素爆発で放出されたヨウ素131の初期調査に〝空白部分〟が生じている問題を取材した。弘前大学被曝医療総合研究所の床次真次教授のチームが、福島県・浪江町の要請に応じてヨウ素131の初期被曝を追っている。

 床次チームは、ガンマ線スペクトルメーターがヨウ素131のピークを鮮明に記録していたことを突きとめる。最大線量は成人で33㍉シーベルト。チェルノブイリは平均50㍉シーベルトだった。「データがなければ安心できない。測定しなければ誰も納得しない」と床次教授。床次チームは、自治体とも協力しながら、ヨウ素131初期被曝の空白を埋める作業を今日も続けている。「報道特集」が今後も取材を継続することが求められる。
 
  TBSの「サンデーモーニング」も3月10日、キャスターの関口宏が陸前高田市から、コメンテーターの金子勝(慶応大教授)が福島県・川内村から生中継で「3・11から2年」を特集した。金子は、川内村村長の遠藤雄幸とともに、福島第一原発の現状を伝える。「2号機格納容器内の放射線量は72・9シーベルト。8分間で死に至る線量が充満している。3号機では、ロボット自体が回収不能という事態が発生した」。

 原発敷地内を埋め尽くす放射能汚染水のタンクが深刻な問題になっている。第一原発正門近くの敷地だけでなく、周辺の森を切り倒して巨大なタンクがひしめいている。貯蔵している汚染水は27万㌧。タンクの容量32万㌧まであと5万㌧に迫っている。地下水が1日400㌧流れ込んでいるため、汚染水が増え続ける。東電は井戸を掘って水をくみ上げ、地下水の流入を止める計画だが、放射能汚染水はあと2年で満杯になる。

 番組は、東電が建設中の「多核種除去設備(ALPS)」の完成が遅れているため、汚染水がたまり続けていると伝える。ALPSは、汚染水から放射性物質を取り除く設備だが、放射性トリチウムは除去できないというのが定説だ。それでも、東電は汚染水の海洋放出を狙っている。コメンテーターの岸井成格がゲスト出演した東大教授の田中知に「東電はいい汚染水と悪い汚染水に分けて、海に流すと言うが」。田中「放出できるかどうか、丁寧に見ていくことが必要。海流の全体に影響する」。

 関口と田中知、川内村からの金子を交えて討論。田中「1号機のメルトダウンがどうなっているか、分からない」。関口「万が一、底のコンクリートを突き抜けるとどうなる」。田中「下までは行っていないと思う」。金子「2年前、事故直後に学者はメルトダウンはないと発言して、信用を落とした。新しいロボットを投入するというが、希望的観測に過ぎる」と批判。田中は「挑戦的な課題だ。しっかりやる」。

 川内村村長の遠藤は2012年1月、「帰村宣言」を出したが、今年3月には汚染土壌10万トンが山積みとなっている。村の9割を占める山村の除染は未だ手つかずだ。郡山市に避難している村民はインタビューに「川内は放射能が飛んでるから」「子供に放射能被災者が出たら、親は何と答えるのか」とやみくもな帰村には批判的だ。村民3028人の内、4割の1163人が戻っただけだ。若い世代の帰村率が低いのが目立つ。

 二つの番組は、「3・11から2年」を比較的まともに取り上げている。ただ、内容的にはまだ不十分だ。「サンデーモーニング」にしても総花的に1年を振り返るのではなく、新たな危機として浮上している放射能汚染水の問題に絞って、掘り下げるという手法もあったはずだ。問題は、原発事故を継続して取材するかどうかだ。同じことは、各局のニュース、情報番組にも言える。今後、福島原発事故にこだわりを持って取材を続けることで、「風化」批判の汚名を返上し、視聴者の信頼獲得につなげることができる。

■発送電分離は電力民主化に不可欠の最低条件
  骨抜き、先送り策す安倍、テレビは徹底監視と取材強化を!

 政府は4月2日、「電力システム改革」を段階的に進める方針を閣議決定した。2018~20年をめどに、電力会社から送配電部門を切り離す「発送電分離」を盛り込んだ。しかし、発送電分離の法改正案を提出する時期については、自民党の反対で「15年提出を目指す」という努力目標に後退した。これにより、電力会社が自民党を通して巻き返しを図る余地を残し、発送電分離が先送りや骨抜きにされる危険が強まった。

 国民が求めているのは、「電力システム改革」という名の既存のエネルギー温存政策ではなく、「電力民主化」だ。政府の電力政策には民主主義が活かされていない。発電も送配電も電力会社が独占し、「総括電価方式」の名のもとに、密室で決めた電気料金を消費者に一方的に押し付ける。徴収した電気料金と国民の血税を原資に、立地自治体などに巨額の交付金をばらまいて進めてきた原発政策が、東電福島原発事故で破たんした。

 電力会社から送配電部門を切り離すことは、電力民主化の重要なポイントになる。発送電分離が実現すれば、この国で電力やエネルギーに民主主義を活かす第一歩になる。しかし、「原子力ムラ」の反発は半端ではない。このニュースに多めの時間を割いた「報道ステーション」(4月2日)で、電気事業連合会会長の八木誠(関西電力社長)は「電力会社は部門間協力で、電力を安定供給している。発電と送電を分離すると、協力が取れるか」と露骨な脅しをかけている。

 番組では、山梨県・北杜市のスーパー社長が「発送電分離の第1歩が踏み出された。政府は今日決まったことを、先送り、骨抜きにしないでほしい」と期待と不安を語る。この日の「報ステ」の最大の〝売り〟は、バイオマスプラントを運営する新潟県の若い農民を追った取材だ。村上市で農業を営む遠山忠弘(30)は、コメづくり農家の3代目。「化石燃料に頼らない再生エネルギー、バイオマスエネルギーに取り組んできた」。

 田んぼにヒントがあった。「田んぼにはメタンガスが含まれている。メタン菌がたくさんある」。遠山に追い風となったのは、遠山プラントの近くに瀬波温泉があったことだ。温泉旅館から毎日大量に出る残飯がエネルギー源になる。残飯以外に汚泥も回収し、遠山プラントの原料となった。2012年度、遠山は3000KWを発電した。一般家庭の300世帯分に相当する。ハウスの温度維持を2400万円でまかない、余った電力を売って800万円の収入を得た。

 生ゴミ→バイオマスプラント→農業→売電の循環システムが完成した。この1年、100を超える自治体や企業が、遠山プラントを見学に訪れた。遠山は「私のバイオマスプラントは、地産地消を確立した。再生可能エネルギーで、循環型の地域社会を造ることができる。全国に広げたい」と胸を張る。小なりとは言え、遠山プラントの電力を送電網に乗せて配電することこそ、未曾有の福島原発事故で得た教訓活かす具体策だ。

 しかし、これは電力会社がこれまでほしいままにして来た利益構造とは、対極的な位置にある。電力会社の代理人とも言うべき自民党が骨抜きにかかる。4月2日に決定した政府の「電力システム改革」方針は、原発事故の教訓とは似ても似つかぬシロモノだ。発送電分離の内容も法案の提出時期もうやむやにされた。夢が広がる遠山の取り組みも、この政府方針では〝絵に描いた餅〟で終わってしまう。

 遠山プラントの電力を送配電網に乗せて、周辺地域の住民に自由に供給することで、電力改革、即ち電力民主化は一歩前へ進む。痛恨の犠牲のもとで、福島原発事故の教訓を活かそうと誓った民意を、テレビは取材を通じてサポートすべきである。うやむやのまま、電力民主化を葬り去ろうとする自民党や財界など「原子力ムラ」の野望を、テレビは監視を続け、実態を継続して報道してほしい。

 3月29日夜、脱原発を求める首相官邸前デモが2年目に入り、6000人の市民が参加した。「参加者が減った」と揶揄されるが、前週(3000人)より倍増した。300人でスタートした1年前に比べれば、20倍も多い市民が結集した。東京は1面写真「官邸前デモ1年」と社会面写真付き9段で報道。朝日も社会面写真付き3段で報じている。

 東京の社会面は「3・11前には戻さない」の見出しで、参加者の声を伝えた。1周年を機に初めて官邸前デモに参加した川崎市の女性は「再稼働に突き進む政治も財界も、事故があったことを国民が忘れるのを待っているように感じる。忘れないぞ、と声を上げ続けたい」。長野県上田市から息子二人と来た女性は「自民党が政権を取り、民意も原発賛成だとされてしまっている」と、脱原発を訴え続ける決意を新たにしている。

 ところが、このニュースをテレビはどの局も報道していない。29日夜のニュース番組にチャンネルを合わせてみたが、官邸前の市民の動きを伝えるニュースにはお目にかかれなかった。テレビはこうした市民の願いを「忘却」の彼方に追いやることなく、社会に伝えてほしい。官邸前市民デモは昨夏、日本の原子力政策を変更させている。これから先、日本の社会を変える原動力になる可能性を秘めている。テレビはその点にも着目し、継続して取材・報道することが求められている。