河野慎二/ジャーナリスト・元日本テレビ社会部長/テレビウオッチ(47)脱原発の新しい日本か、原発漬けの日本か…テレビは除染を夢物語で終わらせるな!11/12/15

脱原発の新しい日本か、原発漬けの日本か

テレビは除染を夢物語で終わらせるな!

河野真二 (ジャーナリスト ・ 元日本テレビ社会部長)

 「除染は夢物語ですか!」。福島県南相馬市から避難している市民の、悲鳴にも似た怒りの声が会場に響いた。12月3日。東京千代田区のプレスセンターホール。「脱原発でひらく新しい日本」集会での発言だ。南相馬市の市民は「一時帰宅した時の線量は毎時5・32㍃シーベルト(以下㏜)、年間60㍉㏜だった」と、線量が下がらない現状を報告。同時に、原発被災住民を救済するため、除染技術の速やかな確立の必要性を訴えた。

 政府は7日から、原発事故で設定された警戒区域や計画的避難区域で、自衛隊員による除染活動を始めた。来月から始まる本格的な除染活動の拠点を作るのが目的で、浪江町や飯館村など4つの役場の敷地を除染した。政府の除染対策は事故後9カ月を経た現在も遅々として進んでいない。政府の無策には不信感だけでなく、あきらめムードすら広がっている。今回も、自衛隊を動員したパフォーマンスではないかとの批判が根強い。メディアは政府の除染対策を厳しく監視する報道を求められている。

 その一方で、野田政権は原発再稼働に向けて動きを強めている。そのひとつが、16日にも政府が発表する予定の福島原発事故収束工程表の「前倒し達成」である。その根拠として、原子炉の圧力容器の温度が100度を下回り、冷温停止を達成できたことを挙げている。しかし、東京電力は11月30日、メルトダウンで溶け落ちた1号機の核燃料が格納容器の底を突き破って、地面を突き抜ける「チャイナシンドローム」寸前の危機に直面していたことを明らかにしている。

 政府と東電は、圧力容器周辺は100度を下回ったとしているが、圧力容器の核燃料は大半が格納容器に落下しているのだから、圧力容器の温度が100度以下になったとしても、冷温停止になったと言えないことは、素人でも分かる。格納容器の底を突き破った核燃料がどうなっているのか、格納容器周辺の温度は何度なのかについて、政府・東電は何も明らかにしていない。ウソと情報隠しで国民を欺いてきた東電の発表には、念には念を入れて吟味しなければならない。しかも、11月1日には、核分裂によって生じるキセノン133が検出されている。

 東電の発表を、テレビニュースはどう伝えたか。30日夜のNHKの「ニュース7」とテレビ朝日の「報道ステーション」がトップで報道した。「ニュ-ス7」は「深刻さを浮き彫りにした」と伝え、「報道ステーション」は古館キャスターが「情報が十分出ていない。不安を掻き立てる。東電の情報は本当に正しいのか。東電はつまびらかにすることが大事だ」としめくくった。東電の発表を鵜呑みにして報道し、何回となく煮え湯を飲まされてきたことへの反省が若干うかがえる。

 福島第一原発が冷温停止とは程遠い状況であることは、東京電力が8日発表した放射能汚染水の太平洋への放出計画からも明らかだ。福島第一原発1~4号機のタービン建屋には1日400トンの地下水流入が続いており、来年3月にも保管タンクが満杯になる見込みで、東電では汚染水を浄化した上で海に放出するとしている。冷温停止とは「放射性物質の大量放出がない」状態を指すが、東電の計画は冷温停止からはかけ離れている。東電は今年4月、汚染水を海洋流出させ国内外の猛反発を招いた前歴がある。〝懲りない〟東電の体質に対し、漁業団体を中心に猛抗議が巻き起こっている。

 福島のコメにも放射能汚染被害が拡大している。福島県は7日、二本松市の旧渋川村地区の農家1戸のコメから国の基準値(1㌔500ベクレル)を超える780ベクレルの放射性セシウムを検出したと発表した。これで、福島産米の放射能汚染は福島市、伊達市を含む3市7地区に広がった。同県佐藤知事は10月12日、県産米の「安全宣言」を出したばかり。稲作農家の間には杜撰な県の対応に怒りの声が上がっている。県の検査体制は質量ともに不十分で、その背景には原発安全神話の存在が指摘されている。メディアは問題点を掘り下げて報道する責任がある・

■「セシウムから福島の子どもたちを守れ」
  児玉教授と保育園の活動をNNNドキュメントが取材

 福島第一原発事故で飛び散った放射性物質を取り除く除染問題も深刻だ。福島県内外に避難した住民は、除染作業が進んでいないため、故郷に戻りたくても戻れない。「脱原発でひらく新しい日本」集会で、南相馬市から埼玉県三郷市に避難している市民が「除染技術は確立しているのか。除染は夢物語なのか」と怒りをぶちまけたのは、避難生活を強いられている住民の気持ちを代弁したものだ。

 実際、除染したはずの住宅から基準値を超えるセシウムが検出されている。福島市の大波地区や渡利地区では、除染が完了したとされる住宅でも、天井から0・8㍃㏜、屋根からは1・5㍃㏜といずれも国の基準値0・23㍃㏜を超える放射線量を検出した。このことは、福島第一原発から今なお、放射性物質が飛散していることをうかがわせる。

 こうした中で、除染問題を巡り2本の番組が放送された。一本目は、日本テレビのNNNドキュメント11「セシウムと子どもたち~立ちはだかる除染の壁」(11月20日)。南相馬市の保育園を舞台に、子どもたちを内部被曝から守る取り組みを描いている。もう一本は、テレビ東京の「週刊ニュース新書」(同26日)の除染特集である。

 「セシウムと子どもたちー立ちはだかる除染の壁」が取り上げたのは、南相馬市原町区にある私立「よつば保育園」。事故直後、他の小中学校や幼稚園と同じように閉鎖に追い込まれたが、避難した子どもたちを迎えようと、副園長や保護者が保育園の除染作業に取り組んだ。カメラが除染に苦闘する保護者を追う。

 連日30度を超える暑さの中、防護服に身を固めて園庭の土を削り、木や草を取るのは想像以上の難作業だ。体調に異変が生じ、倒れる保護者も出る。除染の結果、セシウムの線量は国の基準を下回り、0・2㍃㏜まで下がった。問題は削り取った表土や木の枝、草などをどこに捨てるか。仮置き場は自治体で見つけろと、国は言う。南相馬市も自分の敷地内に埋めるよう指示している。

 保育園は10月11日に再開した。7カ月ぶりの保育園に、事故の前と同じ光景が戻って来たが、肝心な点が違っていた。園児の数が5分の1しかいないのだ。父や母は子どもの被曝を恐れ、8割の子どもが避難先から戻っていない。保育園は一つの提案をする。戻ってきた園児の自宅の除染をサポートすることにした。3人の子どもを育てる草野さんの自宅にボランティアが集まった。庭の土を削り取り、側溝の検査、高圧洗浄器によるセシウムの洗浄と、10数人がかりで除染作業を終えた。業者に頼むと数十万円かかるところを、ガソリン代だけで済んだ。

 問題は、どんどん溜まるセシウムが付着した土や木の枝葉など、放射能汚染ゴミの捨て場所だ。市内のあちこちに土の山ができている。ブルーテントで覆われ、「近寄るな」の張り紙が。仮置き場に保管するとの市の方針も、周辺住民の反対で立ち往生する。桜井市長も「1ヵ所に置くと反対が強い。山際に置けば反対は少ないか」と悩みは深い。

 南相馬市には毎週末、児玉龍彦東京大学教授(アイソトープ総合センター長)が訪れ、除染対策を助言し、自ら除染活動を指導している。画面には防護服姿の児玉教授の姿。「線量が下がらない理由は屋根にある。瓦に苔がついて残っている。その苔にセシウムがくっついている」。児玉教授は「屋根の張り替えが必要」と指摘する。だが、張り替えとなると数十万円は掛かる。国や市から補助は出ない。すべて自己負担だ。

 児玉教授は、福島第一原発の脇を通って北へ向かう。原発から5キロ地点の双葉町。「線量15㍃㏜。1年で100㍉㏜を超える地点に入った」。道路の亀裂部分から600㍃㏜という高い線量を計測した。「割れている表土全部をやり直さないとダメかもしれない」。警戒区域はいうまでもなく、市民生活のレベルにも立ちはだかる壁。「先生、これがセンリョウをはかるヤツ」。首から線量計をぶら下げたあどけない園児の一言に、ドキッとするのはよつば保育園の先生だけではない。

■「線量が多くて除染できない」苦闘する市民
  テレビ東京除染特集「集団移住必要になる」可能性に言及

 テレビ東京の「週刊ニュース新書」が11月26日、事故後8ヵ月経過しても進展しない除染問題を特集した。番組は、福島第一原発に最も近い大熊町や計画避難区域に指定されている川俣町、60キロ離れた福島市渡利地区などを取材。除染が膨大なコストを必要とする割には効果が限定されている実態を明らかにした。そして、被災住民の集団移住も選択肢のひとつとして可能性に言及している。

 事故を起こした福島第一原発1~4号機が立地する大熊町は、立ち入り禁止措置が取られ、8ヵ月間無人のまま放置されている。大熊町で先週、除染の実証実験が始まった。原発から5キロ地点の町役場周辺では、毎時13・68㍃㏜の高い線量が検出された。役場前の公園に入ると、「19・99です。振り切れました」。「線量が多くて、除染ができない」「何回やっても同じだ」と苦闘の声が漏れる。

 原発から30キロ以上離れた川俣町。朝から町民が集まっている。「8時から9時まで草刈り、草取りをします」。多くの町民が、セシウムの付着した落ち葉や苔を落として、高圧洗浄器で洗い流す。線量はどの位下がったか。0・58㍃㏜が0・52㍃㏜に、わずか10%下がっただけだ。原因は汚染土にある。土は仮置き場に保管するというのが国の方針だが、川俣町では仮置き場が決まっていないため、汚染土やゴミを捨てる場所がない。だから、本格的な除染が進まない。

 国は6億の予算を投じて、川俣町すべてを除染する計画だが、住民の間には、あきらめムードが広がっている。原発から60キロ離れている福島市渡利地区も、除染の効果が上がらない。通学路の除染は特に念入りに行われているが、高圧洗浄器でコンクリートの道路や屋根に水をかけただけでは除染できない。4㍃㏜の高い線量が測定されスポットもある。子どもたちは今でも少しずつ被曝している。

 渡利地区の裏手には弁天山がある。雨が降ると、弁天山の木や草に付着したセシウムが同地区に流れ込む。神戸大学大学院の山内和也教授は「屋根瓦は粘土でできている。セシウムが瓦の隙間に入り込み、物質と強く結合している。屋根瓦を全部葺き替えるとか道路全部を作り返さないと元に戻らない」と話す。仮に、全部を作り直したとしても、そのゴミをどこに捨てるのか。コストも含め、気の遠くなる話だ。

 国の方針では除染計画が進まない。しびれを切らした農家が動いた。自分たちの力で独自の汚染マップの作成に乗り出した。国は2000㌶で8ヵ所のサンプル調査を実施しているが、これでは田畑が本当に安全かどうかは分からない。小山福島大准教授のアドバイスを受けて、すべての農地の放射能汚染の実態を測定する。あぜ道を挟んで、線量が3・23㍃㏜から9・0㍃㏜と、3倍の差がある。雨水や風向きで線量が違う。農民は放射能と向き合い、生き抜く道を模索している。

 番組は県がチェルノブイリに派遣した調査団を取材する。団長の清水修二福島大学副学長は「ベラルーシなどは除染作業に取り組んだが、結局除染は行うべきではないとの結論になった。理由は、面積が広大で、費用が膨大になるからだ」と語る。除染は断念し、そのまま放置することを決定した。調査団に参加した川内村の遠藤村長は「川内村でも多くの村民が避難しているが、戻れる可能性はあるのか。戻れるとすれば何時か。戻れないとすればどうするか。判断の時期は近い」。重いコメントだ。

 キャスターは「あくまで国が判断すべきことだが」とした上で、「別の土地に集団で移住することが必要になるかもしれない」と、番組をまとめた。「集団移住」が今ただちに現実のテーマとなることは考え難いが、事故後四半世紀が経過したチェルノブイリの実態を見ると、決して非現実的な考えとは言えない。少なくとも子供と妊婦を避難させ、放射性物質による内部被曝から保護することは、9カ月経た今でも喫緊の課題である。

■野田政権、原発回帰のもとで、「除染利権化」の策謀
  焼け太り図る「原子力村の本丸」にテレビは取材強化を!

 福島原発災害は、さまざまな課題を残して年を越す。3・11東日本大震災と原発災害は「日本はどうあるべきか」という根源的な問いを、国民一人ひとりに突きつけた。人類滅亡につながりかねない原発漬けのまま生きて行くのか、それとも脱原発で21世紀の新しい日本をひらいて行くかという問いである。これについて、国民の多数は原発との共存を拒否する意思を示している。朝日(12月13日)の世論調査によると、原発利用に「反対」とする回答が57%に上り、10月調査の48%から9㌽増えている。将来の脱原発は77%が支持しており、「なお高水準」(朝日)が続いている。

 これに対し野田政権は、菅前政権が打ち出した脱原発政策を骨抜きにして、原発推進に歴史の針を巻き戻そうとしている。大手メディアはこれに多くの紙面や画面を割き、野田政権の裏切りを加速する役割を果たしている。しかし、底流では脱原発で日本の新たな地平を切り開こうとする市民と野田政権との間で、せめぎ合いが続いているのは紛れもない事実だ。原発災害の問題点を継続取材で抉り出している新聞社のデスクはこのせめぎ合いを、脱原発派と推進派との「戦いだ」と表現している。

 野田政権は、来年1月に施行される放射能汚染対策の特別措置法に基づき、本格的な除染や汚染廃棄物の処理に乗り出すとしている。しかし、遅すぎる除染対策に、被災住民はどれだけの期待をかけるだろうか。福島大学が9月、原発周辺の双葉郡8町村の全世帯を対象に行ったアンケート調査結果では、元の居住地に戻る意思はないとする回答が26・9%と4分の1を超えている。その理由は「放射能汚染の除染は困難」が83・1%、「国の安全宣言レベルが信用できない」が65・7%に達している。

 国の除染対策に不信が強まる中、除染が利権の対象になる恐れが出ている。11月1日の衆院本会議で渡辺喜美議員(みんなの党)が「除染事業はなぜ日本原子力開発機構(原子力機構)に一度委託して、(企業などに)再委託するのか。これをやると機構に30数億円のお金が落ちる。民主党が批判してきた中抜き、ピンハネそのものではないか」と質問した。原子力機構は、高速増殖炉「もんじゅ」事故の不手際で解体された旧動燃などを母体にしている。同機構は、民主、自民、公明の密室協議で、「除染法」に基づく除染事業の「独占的決定権」をまんまと手に入れた。

 除染に必要なコストは天井知らずだ。TX「週刊ニュース新書」は百兆円という見通しに言及している。原子力機構は早くも「除染業務講習会」を開催し参加者に「修了証」を付与するなど、「独占決定権」の力を誇示している。完全に除染してくれるのなら、多少の金を払ってでもと考えるのは、ごく当たり前の感情だ。そこにつけ込む業者は既に出没している。その総元締めに、札付きの「原子力村」の本丸である原子力機構が座るというのは、如何にも問題がある。テレビや新聞は、除染に無策の国や東電の責任だけでなく、「焼け太り」を図る原子力機構の問題にも取材のメスを入れるべきだ。

■国会「事故調」は原発震災の原因を徹底究明せよ
  メディアも「発表依存」取材から脱却し核心に迫れ

 東電福島第一原発事故の原因を調べる国会の事故調査委員会が8日、発足した。委員長に就任した黒川清元日本学術会議議長は「国民により事故調査を付託された。憲政史上初の期待に応えたい」と述べた。委員には、かねてから地震による「原発震災」を警告してきた石橋克彦神戸大名誉教授や今回の原子炉破壊が津波ではなく、地震の揺れによる可能性を指摘している田中三彦氏(サイエンスライター)らが就任している。

 黒川委員長は「なぜ原発安全神話が出てきたのか、調べたい」と発言している。委員の間からは、事故原因の徹底的究明と「原発利益共同体」と言われる政・財・官・学の「原子力村」の構造にも検証のメスを入れるべきだとの意見が強く出された。最大のテーマは福島第一原発の全電源喪失と水素爆発は、東電が主張する通り、本当に津波によるものなのかどうかだ。東電はこれまで、津波で全電源が喪失したとする「津波原因説」を繰り返し主張、地震が原因ではないかとする意見を封じ込めてきた。

 ところが、10月24日に公開された東電の手順書(一時黒塗りにされていた)を分析した結果、津波を原因としていた東電の説明がウソであることが判明したのだ。田中三彦氏は、3月11日に発生した東日本巨大地震の長く激しい地震動によって原子炉の配管が破断され、「冷却材喪失事故」が発生、「燃料損傷、炉心溶融、水素爆発が起きた」と指摘している(「世界」、1月号)。これが事実なら、地震国日本の原発の安全性が根本から問い直されるほどの大問題だ。国会「事故調」はこの問題を徹底的に究明してほしい。

 現行憲法のもとで初めて設置された国会の事故調査委員会は、国政調査権が真に国民の利益のために機能するかどうかの試金石になる。佐々木憲昭衆院議員(共産)が「政府から独立し、政治介入を廃し、公開を基本として事故原因の究明に当たることが重要だ」と発言したのは、至極当然のことだ。朝日(12月9日)は、同委員会が「強力な権限を背景に政府や東電の責任に踏み込む可能性もある」と指摘。菅前首相や枝野前官房長官、吉田前福島第一原発所長らの国会招致を視野に入れていると伝えている。

 テレビや新聞などメディアは、東日本大震災と福島原発災害報道について、多くの課題をかかえて年を越す。とりわけ、福島原発災害については、東電や政府の発表を鵜呑みにして伝える「発表ジャーナリズム」の弊害から脱却できないまま、2011年を送ろうとしている。メディアが2012年も「発表ジャーナリズム」に依存して旧態依然の報道を続けるなら、読者や視聴者からイエローカードを突きつけられるだろう。

 日本の電力・エネルギー政策のありかたを検討している総合エネルギー調査会は、「脱原発」と「一定程度原発存続」で議論が真っ二つに割れている。12日の委員会では、両論併記の論点整理案が提示されたが、原発依存度の可能な限りの低減について推進派の榊原委員(東レ会長)が「引き下げには一致していない。恣意的な記述だ」と反発。飯田委員(環境エネルギー研究所長)が「被災した人の目の前で出来る議論か」と反論するなど、「脱原発か、原発依存か」を問われている日本の〝縮図〟をそのまま映し出している。

 しかし、考えてみると、こうした議論は「3・11」以前は皆無だった。すべて、原子力村のメンバーだけで、原発依存のエネルギー政策が決定されていた。それが、脱原発を主張する委員が加わって激論が交わされ、時には脱原発の委員が会議をリードする場面もある。「災い転じて」とはこのことだ。メディアもこうした大きな変化に着目して、2012年の大震災と原発災害報道に向き合う必要がある。

 記者のペンの矛先が鈍ったり、カメラのレンズが曇ったりすれば、原子力村の思う壺である。野田政権の原発回帰政策と脱原発を求める市民とのせめぎ合いを左右するのは、メディアの報道姿勢だ。メディアが政府や東電の発表を伝えるだけなら、底なしの危険と隣り合わせの原発が息を吹き返す。逆に「発表ジャーナリズム」を克服して、脱原発の核心に迫る報道を強化すれば、新しい日本の地平を展望することができる。メディアは、被災市民に「除染は夢物語か」と言わせてはならない。