河野慎二/元日本テレビ社会部長・ジャーナリスト/テレビウオッチ(37)/ 鳩山「温室効果ガス25%削減」に国連拍手   歴史の転換期にテレビの取材強化を期待

09/10/02

 

 

鳩山「温室効果ガス25%削減」に国連拍手

 

歴史の転換期にテレビの取材強化を期待

 

 

河野慎二/元日本テレビ社会部長・ジャーナリスト

 

 

 

 

  民主、 社民、 国民新3党連立の鳩山新政権が9月16日、 発足した。 メディア各社の世論調査によると、 鳩山内閣は軒並み高い支持率を得ている。 TBSの調査 (21日) は80.1%の高支持率を記録、 読売 (10日) の75%、 NHK (21日) の72%が続いた。

 

  鳩山新政権はニューヨークの国連を舞台に、 外交政策を始動した。 鳩山首相は国連総会で二つの重要な演説を行った。 一つは、 地球温暖化の原因となる温室効果ガス削減に関する演説。 もう一つは、 核兵器廃絶に関する演説である。

 

  鳩山首相は22日、 国連気候変動サミットの開会式で演説し、 2020年までの温室効果ガス削減中期目標について 「1990年に比べて25%削減する」 と明言した。 同首相は、 米国や中国などの排出大国に削減の枠組み参加を呼びかけると同時に、 温室効果ガス削減を地球規模で推進するため、 資金面、 技術面で発展途上国を支援する 「鳩山イニシアティブ」 を公約した。

 

  鳩山首相が25%削減目標を明言した瞬間、 議場から大きな拍手が沸いた。 フランスのサルコジ大統領は演説で、 鳩山首相の構想を称賛した。

 

  27日のTBS 「サンデーモーニング」 で岸井成格・毎日新聞特別編集委員は、 「何回か首相に同行して国連総会を取材したが、 各国代表は日本の首相の演説は聞いていなかった。 拍手が起こるのは極めて珍しい」 とコメント。

 

  鳩山首相は24日、 「核不拡散と核軍縮」 をテーマに掲げた国連安全保障理事会の首脳会合で演説し、 核廃絶を訴えたオバマ大統領のプラハ演説を高く評価した上で、 まず原爆の悲惨な実態を強調し 「世界の指導者が広島・長崎を訪れて核兵器の悲惨さを心に刻んでほしい」 と訴えた。

 

  その上で首相は 「核兵器による攻撃を受けた唯一の国家」 として 「核を持たない強い意志」 を示すため 「非核3原則の堅持を改めて誓う」 と述べた。 そして、 「日本が核兵器を持たないと言うだけでは不十分である」 として、 「日本は核廃絶に向けて先頭に立つ」 と決意表明。 核保有国に対し、 核軍縮とCTBT (包括的核実験禁止条約) の早期発効などを呼びかけた。

 

  鳩山首相は歴史認識の問題でも、 重要な発言をしている。 韓国の李明博大統領との首脳会談 (23日) で 「新政権は歴史をしっかり見つめる勇気を持った政権だ」 と述べた。 中国の胡錦涛主席との首脳会談 (22日) では、 日本の侵略と植民地支配への反省と謝罪を表明した95年の 「村山談話を踏襲する」 と明言した。

 

  日韓、 日中関係を強化して、 東アジア共同体構想を実現するため、 歴史認識問題に踏み込み、 自公政治の負の遺産を断ち切る姿勢を示すメッセージである。

 

  鳩山首相の演説などの紹介が長くなったが、 これは自公政治との違いを明らかにするためである。 歴史に 「たら、 れば」 はありえないが、 もし、 先の総選挙で自公が過半数を握っていれば、 こうした演説は起こり得なかった。

 

  選挙で誕生した日本の新政権が歴史に取り残されることのないよう、 有権者の一票が鳩山首相の背中を押したということがよく分かる。

 

■核廃絶、 温室効果ガス削減、 世界経済再建へ

  オバマ、 国連を 「新しい関与」 の舞台に主導

 

  今回の国連総会は、 世界史的に見ても大きな転換点だったことを、 浮き彫りにしている。 ブッシュ時代には国連を事実上無視していた米国だが、 オバマ大統領は地球温暖化や核廃絶、 世界経済の再建などを話し合う舞台として、 国連に再び脚光を当てようと、 リーダーシップを発揮している。

 

  国連の安保理首脳会合は24日、 米国の大統領が初めて議長を務め、 「核兵器のない世界」 を目指す決議を全会一致で初めて採択した。 オバマ大統領は 「この歴史的な決議は、 核兵器のない世界という目的に向かって、 我々が共有する公約を期したものだ」 と宣言した。

 

  オバマ大統領が23日、 初の国連総会演説で、 ブッシュ前政権の 「一国主義」 からの決別を宣言し、 各国に 「新しい関与の時代」 を強調したのも、 歴史的転換点の到来を告げる象徴的な出来事だ。

 

  25日に米ピッツバーグで開かれた世界20ヵ国首脳による 「G20金融サミット」 では、 日米や欧州主要8カ国で構成する 「G8サミット」 に代わり、 「G20」 が世界経済を議論する主要な枠組みとすることで合意した。 これまで世界経済を意のままにコントロールしてきた 「G8」 が、 「G20」 の補完的立場に後退するのだから、 時代の移り変わりの激しさに驚かされる。

 

  日本は、 自民党による一党独裁長期政権のもとで、 政治・経済・外交防衛全てについて事実上アメリカに従属してきたが、 否応なく転換の必要に迫られる。 有権者が自公政治を退場させ、 民主党中心の連立政権に日本の運営を託したのも、 こうした世界の大変動と無縁ではない。

 

■鳩山 「25%削減」 演説で産業界は変わるか

  「LED電球で160万トン削減」 テレビ報道も始動

 

  こうした動きを、 メディア、 特にテレビはどう伝えたか。

 

  各国から高い評価を得た首相の 「25%削減目標」 提案について、 各局の二ュースは型通りの “定番メニュー” で、 必ずしも十分とは言えない内容だった。 首相演説のダイジェストをVTRで流し、 記者がニューヨークから 「評価が高い」 「歴史的提案」 などとリポートするスタイルで、 各局ほぼ横並びだった

 

  28日のNHK 「ニュースウオッチ9 (NW9)」 は、 タイの首都バンコクで始まった国連気候変動枠組み条約の特別作業部会を取り上げた。 この作業部会には190の国と地域の代表が出席し、 12月の 「COP15」 (同条約締約国会議) での合意実現に向け、 協議を行っている。 温室効果ガスの世界総排出量の約40%を、 アメリカと中国で占めているから、 両国の対応がカギとなる。

 

  記者は「オバマ大統領は方針を転換したが、 内容は1990年に戻るというもの。 つまり0%だ。 中国も義務付けられるのは困る、 としている」 とリポート。 米中両国代表にマイクを向ける。 米国代表 「日本がどう実現するか情報がないので、 はっきり言えない」 。 中国代表 「日本の目標は歓迎するが、 様子を見守りたい」。

 

  日本代表の 「日本は積極的な提案をした。 合意できるよう努力したい」 というコメントも紹介するが、 アメリカ、 中国、 発展途上国の意見を洩れなく並べてバランスを取る。 キャスターが 「日本は今後、 国内的な取組みを進めると同時に、 関係国に働きかけることを忘れてはならない」 とまとめのコメント。

 

  率直に言って、 インパクトが弱い。 原因は事実の羅列に終わり、 地球温暖化に対するNHKの危機感やスタンスが伝わって来ないからではないのか。

 

  テレビ朝日の 「報道ステーション」 は9月30日、 国内で始動した 「25%削減」 を報道した。 これまでは、 新政権の方針に反対する財界の主張に軸足を置いた報道が多く見られたテレビだが、 この 「報ステ」 は少し軌道を修正した。

 

  産業界も 「25%削減」 に向け、 重い腰を上げ始めた。 カメラは 「LED (白光ダイオード) 電球で160万トン削減する」 電気メーカーの新製品発表会や、 「CO2 (二酸化炭素) の30%削減に努力する」 冷熱システムメーカーなどを取材。

 

  政権交代前の自公政府は、 「25%削減を実現するには、 家計負担は年間36万円増える」 と発表し、 メディアは大々的に報じたが、 新政権の福山副財務相は 「数字の中身を精査し直し、 正しいモデルを作る」 とインタビューに答える。

 

  コメンテーター (朝日新聞編集委員) が 「鳩山首相の国連演説で、 産業界もいつまでも『削減は、 出来ない』ばかりを言えなくなって、 空気が変わってきた。 政府の試算をやり直すのはいいこと」 と解説。 メディアも、 政府発表を鵜呑みにした報道一本槍では、 視聴者の反発を招き、 信頼を失うだけだ。

 

■インド洋給油・アフガン問題、 民生支援で方向示す

  掘り下げたテレビ報道が少なかった核廃絶問題

 

  温室効果ガス以外では、 テレビ朝日 「報道ステーション」 (24日) のアフガニスタン支援に関する報道が目についた。 この問題は、 23日の日米首脳会談で議題となったもので、 鳩山首相は農業支援や職業訓練などで貢献する考えをオバマ大統領に示し、 大統領も 「大変ありがたい」 と応じていた。

 

  番組ではまず、 鳩山・オバマ会談の詳細を伝えた後、 ケント・カルダー氏 (ライシャワー東アジア研究所長) がインタビューに答えて 「インド洋給油を中止しても、 深刻な影響は出ないだろう」 と語る。 カート・キャンベル米国務次官補も 「政権が代われば、 政策を見直すのは当然の希望。 (鳩山内閣の) 見直し作業を支援し、 米国も情報を提供する」 と、 鳩山政権批判は控えたコメント。

 

  そして、 アフガン復興には、 民生支援が欠かせない事例として、 用水路建設に心血を注ぐ中村哲医師をクローズアップする。 クナール川からカンベリ砂漠に引き入れる23.5キロの用水路建設に、 中村さん自らショベルカーを操る。 映像はこれまでのVTRを再編集したものと見られるが、 「食べ物と清潔な水こそが、 アフガン平和のカギだ。 殺しちゃいけない。 戦争はいけない」 という中村さんの言葉は、 アフガン問題の本質をズバリ衝いている。

 

  スタジオで、 春名幹男・名古屋大学大学院教授の解説。 「アフガン情勢が悪化している。 オバマ政権内で、 アフガン戦略見直しの最中。 米軍増派を止めている。 民生支援増やした方がいいという意見が出ている。 鳩山首相の方針が受け入れられる可能性がある」 「中村さんの活動は、 アフガンの生活、 命を助けてきた。 日本の中立の立場は信頼が厚い。 いかに、 アフガンの暮らしを良くするか。 職業訓練、 農業支援をどう進めるか。 オバマ大統領との会談で出したのは良かった」。

 

  核廃絶については、 NHKの 「NW9」 (24日) や、 日本テレビのニュース 「ZERO」 (24日)、 テレ朝 「報道S」 (25日)、 TBS 「サンデーモーニング」 (27日) などが詳しく取り上げた。 しかし、 内容的にはストレートニュースを若干膨らませたもので、 掘り下げた報道を期待する声に応えたとは言い難い。

 

■温室効果ガスと核兵器は人類共通の敵

  テレビは総力取材で、 的確な情報を発信すべき

 

  温室効果ガスについて、 オバマ大統領は 「重大な脅威だ。 アメリカは行動する覚悟だ」 と語っている。 この発言は、 安全保障の概念が激変していることを端的に示している。 ブッシュ前政権までの米国が声高に主張してきた軍事的脅威を、 はるかに上回る地球規模の脅威と、 人類は闘わなければならないという認識である。

 

  このまま、 温室効果ガスの垂れ流しを続ければ、 大気汚染による環境破壊や、 酷暑、 洪水、 旱魃などの自然災害による生活破壊に留まらず、 最終的には地球の生命や人類の生存自体すら脅かしかねない。

 

  核廃絶についても、 オバマ大統領は 「核兵器がなくなるまで、 歩みを止めてはならない」 と強調した。 核兵器の脅威を示す “世界終末時計” は、 1953年の 「2分前」 から、 91年には 「17分前」 に改善されたが、 07年は 「5分前」 と逆戻りしている (TBS 「サンデーM」、 27日)。

 

  核兵器は最悪の地球環境汚染の根源であり、 核汚染は死に直結する。 NHKが8月6日に放送した 「核は大地に刻まれた~“死の灰”消えぬ脅威~」 は、 旧ソ連時代に度重なる核実験で大地が核汚染された、 カザフスタン・セミパラチンスクの悲劇を厳しく告発した番組である。

 

  セミパラチンスクでは、 実験から半世紀を経た今も核被害が残っている。 原爆投下が、 今なお被爆者の2世、 3世を苦しめる広島・長崎と共通する。

 

  温室効果ガス削減と核廃絶は、 人類にとって待ったなしの緊急課題である。 鳩山首相は 「2020年までの25%削減実現に、 政策を総動員する」 と国連で公約した。 「核軍縮・不拡散に向けた行動」 は 「地球上すべての国の責任」 と訴えた。

 

  テレビ局は、 国民の財産である電波を、 放送免許という形で特権的に利用し、 内部留保を蓄えてきた。 各国の指導者と国連が歴史的転換に踏み出した今、 テレビ局もその経営資源を総動員し、 大転換しようとする歴史のダイナミズムをカメラとマイクで捉え、 的確に伝えてほしい。

(終わり)