河野慎二/元日本テレビ社会部長・ジャーナリスト/テレビウオッチ(32)/西松違法献金民主直撃、自民にも飛び火―政治とカネ不正根絶へ テレビ報道に期待―09/03/14

 

 


 

 

西松違法献金民主直撃、自民にも飛び火

 

―政治とカネ不正根絶へ テレビ報道に期待―

 

 河野慎二(ジャーナリスト・元日本テレビ社会部長)

 

 

 小沢一郎民主党代表の公設第一秘書が、西松建設の違法献金事件で東京地検に逮捕された。半年以内に衆議院の解散総選挙の実施が確定しているという政治状況の下で、いま選挙が行われれば第一党になる可能性がある民主党党首秘書の逮捕である。政界には測り知れない衝撃が広がっている。東京地検の捜査意図にも憶測が飛び交っている。

 

 西松建設による違法献金汚染は民主党だけにとどまらない。二階俊博経済産業相は巨額のパーティ券を西松建設に購入させていたことが明るみに出て、地検の捜査対象になっている。二階氏以外にも、森元首相や尾身元財務相など、自民党の多くの政治家が西松建設の違法献金の恩恵に浴している。

 

 自民、民主両党を巻き込んだ、公共事業に絡む準大手ゼネコンによる裏金献金疑惑は、政治とカネを巡る底の知れない政治腐敗を白日のもとにさらしている。

 

 両党は、企業などの政治献金を制約する代償措置として、国民の血税から巨額の政党交付金を受け取りながら、その代表や閣僚がダミー団体の利用などを通じて、西松建設から違法な企業献金を集めている。これでは、国民の政治不信は募るばかりだ。

 

 テレビはこの問題を精力的に取材、報道しているが、この際、期待を込めて注文を出しておきたい。

 

 テレビは、この事件を「小沢の進退はどうなるか」「麻生の反転攻勢は?」といった狭い「永田町情報」の枠内での報道に終始すべきではない。いまテレビ報道に求められるのは、政界にばら撒かれたとされる5億円近い西松疑惑マネーの行方を解明し、政治とカネの問題について、二度と不正が起こらないよう根本的にメスを入れる取材である。

 

■小沢氏の「金庫番」大久保容疑者逮捕

 

 「どこからの金か詮索しない」発言に国民唖然

 

 東京地検特捜部は3日、小沢代表の公設第一秘書で、同氏の政治資金管理団体「陸山会」会計責任者の大久保隆規容疑者(47)を逮捕した。容疑は、西松建設からの企業献金であることを知りながら、陸山会の政治資金報告書に同社のダミーの政治団体から2,100万円の献金を受けたとする虚偽の記載をしたとして、政治資金規正法違反に問われたものだ。

 

 小沢代表は翌4日午前、記者会見で反論したが、NHKはこれを生中継。フジテレビとテレビ朝日も朝の情報番組終了直前に会見冒頭部分を生中継で追い込んだ。

 

 この中で小沢代表は「何らやましいことはない。適法に処理し、届け出て公表している」と主張し、代表や議員を辞職する考えはないことを表明した。小沢代表は同時に「政治的にも法律的にも不公正な国家権力、検察権力の行使だ」と、検察批判を展開した。

 

 しかし、この強気の会見は裏目に出る。実際、テレビの中継を見ていて、小沢代表が説明責任を果たしたと受け止めた人は皆無に近かったのではないか。特に唖然とさせられたのは、「献金を企業はいけないとか、誰はいけないとか、制約するやり方ではなくて、献金はどこから受けたって構わない」。「献金は、どっから持ってきた金だとか、そういう類の詮索はしないのが大多数だ」という発言だ。

 

 政治とカネの不正に無反省な小沢代表の発言に、世論は猛反発した。3月第1週の週末に行われた世論調査では、「小沢代表の説明に納得できる」と答えた人は、朝日、読売、TBSの調査でわずか12%の横並び。「納得できない」の回答は、朝日77%、読売81%、TBS80%。10人のうち8人もの人が、小沢氏は説明責任を果たしていないと判断したのだ。

 

 小沢氏が民主党代表を辞任すべきだという回答は、朝日57%、読売53%、TBS52%と、3社とも過半数を超えた。

 

■「小沢を叩ける」―はしゃぐ自民党に火の粉

 

 二階経済産業相、森元首相らに巨額の西松マネー

 

 小沢代表の「金庫番」逮捕にはしゃいだのが自民党である。細田幹事長が「今日は大転換の日でございます!」(5日)とぶち上げた。5日は、青森県など一部で、定額給付金給付が始まった日だ。反転攻勢へと自民党は勢いづいた。

 

 「(給付金で)冷蔵庫を買う」(古賀選対委員長)、「地デジ(地上デジタルテレビ)に対応する」(谷垣元財務相)、「5月解散断行、国民の信を問うべき」(山崎元幹事長)と、笑いを噛み殺したお歴々の表情がテレビに登場した。

 

 だが、ホコ先は自民党にも向かった。西松建設の疑惑マネーを受け取った自民党の大物議員が、続々と姿を現したのである。

 

 最大の“受益者”は、二階俊博経済産業相である。二階氏は2004年から07年までの3年間、838万円ものパーティ券を、西松建設のダミー政治団体に購入してもらっていた。

 

 テレビ朝日の「報道ステーション」が、この問題を審議した6日の参院予算委員会を集中的に取り上げた。番組では共産党の小池晃議員の追及に時間を割き、二階経産相の主張の問題点を浮き彫りにした。放送されたやりとりを一部再録すると―

 

 小池 「実際には西松が購入したものではないですか」

 二階 「個々の寄付をいちいち承知している訳ではない」

 小池 「提供してくれる団体がどういう団体なのか、どういう性格の金なのか、分からないで受け取るのですか」

 二階 「いちいち詳細を存じ上げている訳ではない」

 小池 「突出して(購入して)いるのは、(西松の)2団体。838万円もお金を出してくれている。もうお得意様じゃないですか」

 二階 「存じ上げないものは、存じ上げない」

 

 二階経産相には、この838万円のほかにも、西松建設から2006年以降毎年300万円の政治献金を受けていた疑惑が浮上している。読売(3月10日)によると、西松建設は、「西松」の名前を隠すため社員や家族ら60人の名義で、二階氏が代表を務める政党支部に現金を振り込んでいたもので、他人名義の献金を禁止した政治資金規正法に違反する疑いが強いという。

 

 自民党では二階氏のほかに、森喜朗元首相が300万円、尾身幸次元財務相が400万円(テレビ朝日「サンデープロジェクト」は1,200万円と報道)、山口俊一首相補佐官が200万円など、12人の議員が04年から06年の間に、2,510万円の献金を西松建設から受けている。

 

 小沢氏の陸山会への迂回献金が2,100万円と飛びぬけて大きいため、小沢代表の法違反疑惑が目立つが、西松建設の裏金献金まみれになっているという点では自民党も変わらない。

 

■「自民に捜査及ばない」漆間官房副長官が暴言

 

 麻生十八番のブレ、午前「誤報」二転三転夜撤回

 

 政局は、日替わりでめまぐるしく動く。「小沢秘書逮捕」で自民党は反転攻勢の決め手を握ったと色めき立ったが、「二階疑惑」で冷水を浴びせられた。ぬか喜びに拍車をかけたのが、「捜査は自民党に及ばない」とする「政府高官」発言である。

 

 その「政府高官」は、漆間巌官房副長官である。漆間副長官は5日、内閣記者会との定例懇談で「自民党議員に波及する可能性はないと思う」と述べた。

 

 首相、官房長官に次ぐ官邸ナンバー3の漆間副長官が、捜査の見通しに言及するのは極めて異例だ。捜査の中立性、公平性が疑われる。懇談では、メモを取らず、テープも持ち込まないのがルールだが、出席した新聞、テレビ、通信の10数人の記者は漆間副長官の発言を確認し、出稿した。

 

 新聞各紙は6日の朝刊で、「自民党側は立件できないと思う」(朝日)、「自民党の方にまで波及する可能性はないと思う」(読売)などと、実名は出さず「政府高官」発言として報道した。

 

 不可解なのは、テレビが5日夜のニュースで一行も伝えていないことだ。民放4局のニュースを見ていたが、この問題発言を報道した局はなかった。

 

 TBSのホームページに6日午前零時17分付で掲載されているから、6日朝のニュースで伝えたのかもしれない。

 

 それにしても、発言直後の5日夜に報道しなかった民放4局の判断はどういう根拠に依るものなのか。まさか、ニュース価値がないと判断したのではあるまい。それとも、腰が引けたのか? 検証が必要だろう。

 

 この漆間発言で麻生首相は、二転三転ブレ捲くった。9日の参院予算委員会で、午前中「誤った報道」とメディアに難癖をつけ、午後になると「漆間副長官と記者の受け止め方にズレがあった」と修正。夜のテレビぶら下がりインタビューで報道批判発言を「撤回」した。

 

 漆間副長官については「厳重注意にした。これ以上の処分はしない」と罷免する考えはないことを示した。

 

 しかし、この認識は極めて甘い。官僚トップの漆間氏が地検の捜査に「逆指揮権」の発動とも取られかねない発言をしたことの責任は極めて重い。

 

 泥酔会見で世界に醜態を演じた中川前財務相をかばい続け、統治能力が地に堕ちた麻生首相には、どうやら問題の大きさが見えないらしい。

 

■麻生「敵失」でも反転攻勢のきっかけ掴めず

 

 自民の金権腐敗体質に、世論厳しい目向ける

 

 小沢氏秘書逮捕直後の世論調査を見ると、党首のスキャンダルが摘発された割には、民主党が決定的なダメージを受けたという結果が大きく出ていないのが意外感を与える。

 

 読売(9日)によると、民主党の支持率は23.8%と前回より4.5ポイント下げたが、自民党も2.7ポイント減の24.1%。麻生内閣の支持率は17.4%(前回19.7%)と続落、不支持率は74.8%(前回72.4%)とさらに悪化した。

 

 「麻生・小沢のどっちが首相に相応しいか」という問いでは、小沢氏が35%(同40%)に減ったが、麻生氏は26%(同24%)と微増にとどまり、現職の首相が進退を問われる小沢氏に依然大差をつけられた。朝日の調査でも、同じ設問で小沢氏は前回より13ポイント大幅ダウンの32%だったが、麻生氏の22%(前回19%)を10ポイント引き離している。

 

 小沢代表の献金疑惑を反転攻勢の転機にと目論んだ自民党だが、西松建設の違法マネーにどっぷり汚染された二階経産相と、捜査の中立性に疑念を抱かせる漆間官房副長官発言が、世論にソッポを向かせてしまった。

 

 自業自得と言うべきだろう。骨の髄まで染み込んだ自民党の金権体質が、衆院選敗北という恐怖のドロ沼から這い上がるチャンスをフイにしようとしている。

 

 日本の戦後政治は、田中角栄元首相が逮捕されたロッキード事件(1976年)、竹下内閣が総辞職に追い込まれたリクルート事件(1989年)、金丸自民党副総裁逮捕につながる東京佐川急便事件(1993年)など、政治とカネを巡る自民党の腐敗が繰り返されてきた歴史という側面がある。

 

 その度に、政界浄化が叫ばれ、政治資金規正法が改正されてきた。しかし、必ずと言っていいほど抜け道が用意され、政治腐敗は生き延びてきた。

 

 西松建設がこの10数年で、3億円とも言われる巨額の献金を小沢サイドにつぎ込んだのは、元々弱かった東北地方の公共事業受注に小沢氏の影響力を期待しての行為とみられている。

 

 河北新報(3月4日)によると、西松建設は大久保秘書逮捕容疑の違法献金があったとされる期間の05年度に岩手県の胆沢ダム工事などで200億8,800万円、06年度は岩手県盛岡大迫トンネル築造工事など、32件535億3千万円を受注。07年度にも281億3,600万円を受注している。

 

 小沢氏側は便宜供与を否定するが、自民党と業界の癒着構造を自らも受け継いできた小沢氏のDNAは、以心伝心で西松の意向を受け止め、影響力行使につながったのではないか西松建設の行為は、ダミーの政治団体などを通じてカネをばら撒き、その見返りとして巨額の利益を手中に収め、カネで政治を左右しようとする準大手ゼネコンの積年の歪んだ体質を改めて浮き彫りにしたもので、その責任は重い。

 

■「政党助成金を受けている。企業献金は止めるべき」

 

 みのもんた「朝ズバ」、政治とカネの不正防止に一石

 

 この際、テレビ報道に求めたいのは、デイリーの動きをきちんとフォローすると同時に、政治とカネを巡る腐敗の根絶に目を向けた取材を強化することだ。

 

 小沢氏秘書逮捕翌日のTBSの「みのもんた朝ズバッ!」(3月4日)で、みのもんた氏がこの問題について、コメンテーターの与良正男毎日新聞論説委員とやりあう場面があった。

 

 みの氏の主張は「国民は税金から議員に政党助成金を差し上げている。企業献金はやめた方がいい」というもの。与良氏は「見返りを求めなければいいのでは」と応じるが、論拠は弱い。話が政党助成金に及び、与良氏が「私たちは1人250円ずつ出している。どれだけの人が自覚しているか」とコメント。

 

 みの「新聞に書いてくださいよ。今朝、政党助成金に触れた新聞は一紙もない。それが新聞の役目じゃないですか」与良「ずっと書き続けている」みの「政党助成金を貰っている君達は何やってるんだと書いてくださいよ。ハラ立ちますよ、こういう記事を見ると」与良「一面トップでやるんですか」みの「だと思う。そうあってほしい」。

 

 みのもんた氏がフリップを手に、「自民が165億円、民主党110億円、公明党28億円。こんなに(政党助成金を)貰っているんです。(政治献金をやめないの)だったら、こんな大きなお金、もっと困っている人たちに使った方がいい」と、07年の政党助成金の配分実態を説明し、感想を一言。

 

 コメントというよりさりげない呟きだが、ポイントを衝き、視聴者へのインパクトも意外と強い。

 

 実際、2005年までの10年間で、自民党1,470億円、民主党619億円、社民党266億円、公明党211億円など、合計3,125億9,700万円もの政党助成金が払われている(共産党は「思想良心の自由に反し、憲法違反」として、受け取りを拒否している)。

 

 これだけ膨大な政党助成金を受け取りながら、自民、民主両党には巨額な企業献金が、法の網をかいくぐって流れ込んでいる。

 

 テレビは小沢代表や麻生首相の動きをウオッチし、東京地検の捜査が公正に行われているかどうかにも、取材を怠らないでほしい。もちろん、日常の動きの取材にとどまらず、同時に、政治とカネを巡る不正、腐敗を根絶するために何が必要かというテーマにも目を向けて、番組を制作してほしい。

 

 今回の西松建設の違法献金のような事件が起きると、「政治とカネ」は、キャスターのまとめのコメントとしてよく使われる。3月5日の報道ステーションでも古館キャスターが「政治とカネの問題にメスを入れることが大事ですね」と締めくくっていた。

 

 テレビは「政治とカネ」をまとめのコメントとして使うだけではなく、腰を据えてこの問題にメスを入れてほしい。

 

 「みのもんた朝ズバッ!」の手法も参考になる。「あれは、ワイドショーだからできた。ニュースはちがう」という声もあるかもしれない。しかし、「朝ズバッ!」を見た人は、みの氏の主張に共感した人も少なくないと思う。

 

 番組づくりにニュースもワイドショーもない。視聴者に訴える価値のある手法は、ニュースも取り入れてはどうか。

 

 とにかく、政府や自民党、民主党を動かして、政治とカネの不正、腐敗を断ち切るには、テレビや新聞が取材活動を通じて真実を明らかにし、改革の方策を提言することが欠かせない。(了)