河野慎二/ ジャーナリスト/10月28日「自民党が憲法改正草案」/05/12/10                     


  10月28日「自民党が憲法改正草案」

  河野慎二(ジャーナリスト・テレビ)

10月28日、自民党が憲法改正草案を決定した。自衛隊を自衛軍に改め、海外での武力行使に道を開くのが最大のポイントである。そのために、第2章のタイトル「戦争の放棄」を弊履のごとくゴミ箱に投げ捨てた。

政府はこれまで集団的自衛権の行使を否定してきたが、改憲草案はこの基本方針をいとも簡単に反古にした。この草案が実現すると、アメリカの戦争に自衛隊が動員され、世界各地で「日本軍」兵士が市民に銃を向けるという恐るべき事態が現実のものとなる。この自民党改憲草案をメディア、特にテレビはどう伝えたか。問題点を詳しく報じた局と“素通り”した局と、バラつきはあるが、総じて言えば極めて腰の引けた報道姿勢と言わざるを得ない。

 TBS「筑紫哲也NEWS23」は、自衛隊を自衛軍に改める草案の問題点を、逐条解説した。市民インタビューを交えながら、比較的まともに伝えた。対照的なのが日本テレビ「今日の出来事」で、草案については「その他ニュース」扱いだった。「トルコ保育園のイジメ映像」や「六本木絶叫マシーン」に長い時間を割き、ニュースの価値判断基準に大きな疑問を残した。

戦後60年、日本は世界のどの地域でも戦争で人を殺していない。それは、戦後の日本が憲法9条で戦力の不保持と交戦権を否定したからにほかならない。その9条を改悪しようというのだから、尋常なことではない。メディアとしては何をさておいても、改憲の背景や目的、改憲がもたらす諸結果などについて分析・取材し、視聴者、読者に伝えるのは、最低限の任務である。そして、これらの問題点を伝えるには、十分な時間が必要であり、草案発表当日のストレート報道だけでなく、何日かに分けた特集編成(新聞の連載企画)が不可欠である。 その意味で、改憲草案のニュースを事実上無視した日本テレビの報道姿勢は論外であるが、TBSの扱いも十分とはいえない。

 なぜ自民党はこれほどまでむき出しの形で自衛隊の海外武力行使に道を開こうとするのか。米政権は、日本の憲法9条が自衛隊の海外での活動の障害になっていると、しばしばあけすけに言明(アーミテージ元国務副長官など)しているが、こうした問題は草案にどう影響したのか。この点は、ジャーナリズムにとって最も興味をそそられるテーマであり、国民にとっても最大の関心事である。

11月15日、テレビ朝日の「報道ステーション」は、米フォートルイス基地で自衛隊と米軍が共同訓練を行う実態を特集で報道した。都市ゲリラを想定した市街戦の訓練である。イラクで民家を攻撃し、市民を殺害する米軍とダブってくる。特集では、「いずれ日本の自衛隊と戦場で一緒に戦うようになることを期待する」と語りかける米兵と、戸惑いをかくしきれない自衛隊員の対照的なショットが映し出される。取材したディレクターは「国民の知らないところで憲法を逸脱し、自衛隊がアメリカの戦略に組み込まれている」と証言する。この企画は在日米軍再編問題に関連した特集だが、テレビメディアはこの特集のような視点で、憲法問題を取材し、掘り下げた企画報道に取り組んでほしい。「画にならない」とか「視聴率が取れない」などの判断基準でなく、国民生活の根幹にかかわる問題としてカメラやマイクを憲法に向けてほしい。(河野)