/岩崎貞明/テレビ朝日系『スーパーモーニング』06年3月8日放送「沖縄密約問題」06/03/15

 


テレビ朝日系『スーパーモーニング』06年3月8日放送

「沖縄密約問題」

        岩崎貞明(放送レポート編集長)

 テレビ朝日系で月〜金の午前8時から放送されているワイドショー『スーパーモーニング』で、約30分の特集コーナーとして、1972年にアメリカから沖縄諸島が日本に返還された際に日米間で密約を交わしたのではないかとする「沖縄密約問題」が取り上げられた。この中で、沖縄返還協定当時の外務省アメリカ局長だった吉野文六氏へのインタビュー内容を放送、吉野氏は密約の存在を認める発言を行った。インタビューを行ったのはジャーナリストの鳥越俊太郎氏で、そのやりとりは、おおむね次のようなものだった。

鳥越「日本が(400万ドルを)肩代わりしたということが日本の国民にわかると国会がうるさいから、表に出さないようにしよう、と。これが密約ですね」(写真左、鳥越俊太郎さん/ジャーナリスト)

吉野「そうですね、密約ですね」

鳥越「そうすると、あのときの西山さんのスクープは当たっていたわけですね」

吉野「それは、電報に書いてあるんだから…(笑い)」

鳥越「400万ドルを3億2000万ドルの中に入れることなど、最終決定は誰がしたんですか?」

吉野「それはわれわれより上の、佐藤(総理大臣)さんであり、愛知(外務大臣)であり…佐藤さんがウンと言わなかったら、愛知さんも単独ではやれなかったでしょうね」

吉野「3億2000万ドル支払わなければ(沖縄返還)協定ができないというところまで行ったのは、ひとつはアメリカの国際収支が悪くなったこと、他方には日本がベトナム特需でうんと儲けていたこと、対米輸出が増えていたことで、アメリカの議会で『なんでそういう国にただで返すんだ』ということになった」

吉野「(400万ドルの件)それだけを秘密にしようということではなくて、交渉中の事項は全部秘密にしようということでした。条約(沖縄返還協定)にも書かないでおこう、と。3億2000万ドルの内訳なんてものは、なんとも言えない」

鳥越「そうすると3億2000万ドル全体がもう…」

吉野「そう、払わなくていい、払うつもりのなかった金ですよ」

 吉野文六氏は87歳。沖縄返還協定をめぐる日米交渉の実務担当者だった人物だが、最近まで吉野氏はメディアの取材に対して、密約の存在を認める発言はしていなかった。

 この沈黙を打ち破ったのは北海道新聞だった。今年2月8日付の同紙紙面で吉野氏は、米軍撤退に伴う原状回復補償費400万ドルは日本が肩代りしたこと、その肩代りは佐藤栄作首相の判断で、沖縄返還に伴う日本の負担総額は3億2000万ドルにのぼり、その内訳は明らかにされていないこと、そして当時の日本政府が、円と交換して得た返還前の米ドルを無利子で米国に預託することについても密約を交わしていたことなどを認めた。

 元外務省幹部が、政府が否定し続けている密約の存在を認める発言を行うという衝撃のスクープに対して、沖縄の二紙(琉球新報、沖縄タイムス)、共同通信、朝日・毎日・読売の各紙等も吉野氏へのインタビューをそれぞれ独自に行って、比較的大きな扱いでそれぞれ報道した。これらの取材に対して吉野氏は淡々と、密約を認める証言をしている。今回の取材はこれらの報道の後追いにあたるが、テレビで吉野氏の発言を、これだけの時間を費やして報じたのは初めてだ。

 この「沖縄密約問題」は、「西山太吉事件」として知られるところだろう。1971年、毎日新聞政治部記者だった西山太吉氏が、外務省の女性事務官を通じて極秘の電信文のコピーを入手し、それを一部報道したものだが、そのコピーは社会党の横路孝弘議員(現・民主党、衆議院副議長)の手にわたって国会で追及され、情報源を特定した政府は西山氏と外務事務官を国会公務員法違反で逮捕・起訴した。一審・東京地裁は報道の自由を認めて西山氏無罪の判決だったが、東京高裁で逆転有罪、最高裁が上告棄却して有罪が確定した。西山氏は毎日新聞を去り、以後およそ30年にわたって沈黙を続けることになる。

(写真右、西山太吉さん/ジャーナリスト)

 2000年と2002年にアメリカの公文書公開でこの密約を裏付ける資料が出たことが日本で報道されたが、日本政府は一貫して密約の存在を否定している。『スーパーモーニング』は昨年も西山氏をスタジオに招いてインタビューするなど、折に触れてこの問題を追及する姿勢を見せている。

 米軍再編が議論され、在日の米海兵隊がグアムに移転する費用を日本が負担するなど、日米関係では常に日本が過大な負担を求められ、いままた求められようとしている。沖縄密約問題は現在に生きている問題であり、国民の税金を不当に支出する国家的な犯罪行為だといえる。憲法改正、とくに九条改正をめぐる議論では、日米安保条約の問題を避けて通れない。そして、日米関係を考えるためには、この密約問題はやはり重要な検証材料のひとつだ。他のメディア、とくにニュース番組での追及に期待したい。