梅田正己/編集者/米軍再編」問題の本質は何か/06/06/15

 


 

「米軍再編」問題の本質は何か

――それは米軍だけの再編ではない

梅田正己

(編集者。著書『「非戦の国」が崩れゆく』高文研ほか)

6月10日(土)夜7時半から10時半まで3時間にわたったNHK「日本の、これから『米軍基地について考えたことはありますか』」は、何とかNHK臭を脱しようという思いもうかがわれて、熱気のこもった番組だった。

額賀防衛庁長官を中心に、50人の市民が参加して発言したが、その中には沖縄からの参加者も多く、しかも問題の辺野古での新航空基地建設に2年近く座り込み反対運動を続けてきた「命を守る会」の金城代表や、「ヘリ基地反対協」の安次見共同代表、また嘉手納町長の宮城町長やカデナ爆音訴訟原告団のメンバーの姿もあった。

 番組の会場では、嘉手納の住宅地で毎日何十回も繰り返される米軍機の殺人的な爆音を忠実にa´A¨再現a´≠オ、少なからぬ参加者のキモをつぶさせた。沖縄の基地負担の重さを伝える上では、この番組の意味は大きかったと思う。

しかし、額賀防衛庁長官が日本側の主役をつとめた「米軍再編」をめぐる日米交渉の合意結果については、ほとんど踏み込むことなく、額賀長官の雄弁ぶりだけが印象に残る結果となった。

今回の「米軍再編」の本質は、番組で斎藤貴男氏が言っていたように、日米両軍の一体化である。

そのことは、昨年10月29日に発表された合意文書のタイトルそのものが語っている。

「日米同盟――未来のための変革と再編」。

米軍だけの再編ではない。日米両軍の「変革と再編」なのである。

では、この「変革と再編」の結果、米軍と自衛隊はどういう関係になるのか。

合意文書の「? 兵力態勢の再編」の「1.指針となる考え方」の冒頭に、両者の関係が次のように明確に規定されている。

《アジア太平洋地域における米軍のプレゼンスは、地域の平和と安定にとって不可欠であり、かつ、日米両国にとって決定的に重要な中核的能力である。日本は……米軍によって提供される能力に対して追加的かつ補完的な能力を提供する。》

米軍が「中核的能力」であり、自衛隊はその「追加的かつ補完的な能力」だと規定しているのである。

東北アジアから中東にいたる「不安定の弧」を作戦対象領域として、キャンプ座間には米陸軍第1軍団司令部を改編した新司令部が設置され、そこには自衛隊の特殊部隊を統轄する新編制の「中央即応兵団司令部」が同居することになる。

また、横田基地には現在、在日米空軍司令部(第5空軍司令部)が置かれているが、そこに、現在は府中に所在する航空自衛隊の総司令部(航空総隊司令部)が移ってゆく。

また横田基地には在日米軍の司令部があるが、そこに日米の共同総合作戦調整センターが設置される。

海軍の場合はすでに、横須賀軍港で、米第7艦隊の司令部と、海上自衛隊の自衛艦隊司令部が隣接して活動している。

それに加え、今回の日米合意で、海につづいて陸と空も、日米両軍の司令部が同一基地内に同居することになるわけである。

こうして、日米両軍の司令部の一体化が一挙のすすめられる。

司令部の一体化は、また軍の一体化にほかならない。

しかし、先に見たように、日米両軍の関係は、米軍が「中核的能力」であり、自衛隊はその「追加的かつ補完的な能力」にすぎないのである。

作戦を立て、軍を運用するにあたって、どちらが主導権をとるかは言うまでもない。

こういう両国関係を、自ら認めてしまったのが、今回の「日米同盟――未来のための変革と再編」なのである。

「戦力」の保持を禁じた9条2項の下、「専守防衛」のはずの自衛隊が、国民のほとんどが気がつかないうちに、ここまで来てしまった。

国家のアイデンティティの根幹にかかわる、この重大な問題について、議論らしい議論もしない国会、問題の所在そのものにも気がついていないらしいマスメディアの有様を、後世の歴史書はどう書くのだろうか。