梅田正己/編集者/沖縄知事選が示す意味―沖縄の動向が日本政治の方向舵となる  2014/10/30

                 沖縄知事選が示す意味

          沖縄の動向が日本政治の方向舵となる

                              梅田  正己 (編集者)

 今回の知事選の構図は、沖縄の政治的地殻変動を劇的に示すものとなった。保守の陣営が二つに割れ、これまでの伝統的な保守対革新の構図から、沖縄の自立的位置をどう確保・確立するかという、その存立の根幹にかかわる問題を対立軸として争われることになったからだ。
  理由は、もちろんある。第二次大戦以前の歴史は置くとしても、沖縄戦後69年にも及んだ、日米両政府と本土のマスメディア、それに国民の多くも加わった、沖縄の現実に対する無視・軽視の蓄積だ。

 近年の出来事を振り返っても、いくつかの事例がすぐ浮かぶ。
  たとえば日本の首相として初めて普天間基地の「県外移設」を公約した鳩山元首相への仕打ちだ。2010年4月13日、核保安サミットで訪米した元首相は、やっとオバマ大統領との時間を取ることができた。しかし夕食時の10分間だけだった。
  翌日の全国紙の社説は結びでこう書いた。
  読売「米国や地元との信頼関係がなく、調整作業にも着手できない中、どう問題を決着させるのか、首相に残された時間はあまりない」
  朝日「いずれも鳩山政権に対する国内外の信頼を決定的に失墜させ、存亡の危機にすら直面させるだろう。/残された時間は1カ月半である」
  どちらも、冷やかに突き放している。
  沖縄の基地問題に本気で取り組もうとしたただ一人の首相は、こうして1年もたたずに首相の座から引き降ろされた。首相に対する冷笑は、基地負担の軽減を求める沖縄の訴えに対する軽侮にも感じられる。
  一昨年1月にも同種のことが繰り返された。沖縄の全41市町村の首長が署名した「建白書」をたずさえ、首長、議長、県議ら140人が上京した。建白書はこう訴えていた。
  「この復帰40年目の沖縄で、米軍はいまだ占領地でもあるかのごとく傍若無人に振る舞っている。国民主権国家日本のあり方が問われている/安倍晋三内閣総理大臣殿/沖縄の実情をいま一度見つめていただきたい」
  代表団は日比谷野外音楽堂で4千人の集会を開き、銀座通りをデモした後、安倍首相に面会し、建白書を手渡した。しかし首相がそのために割いた時間は、わずか4分だった。
  また、この前代未聞の「建白書」提出について、在京各紙は写真だけは載せたものの、沖縄の切羽つまった思いとその行為の歴史的意味を説いた記事は皆無だった。社説も朝日が取り上げただけだった。

 こうした事実の重なりの上に、昨年12月、仲井真知事の公然たる誓約放棄行為が起こった。あわせて、沖縄選出国会議員5名の選挙民に対する裏切りが生じた。政府と政権党の圧力と恫喝によるのは明らかだった。
  仲井真知事の「承認」によって、辺野古の海を破壊しての基地建設の準備工事が開始された。県民の圧倒的反対を押し切って強行配備されたオスプレイは、平然と約束を破って飛行禁止時間にも低周波爆音を響かせている。
  沖縄タイムスと琉球朝日放送が10月25、26日に行った知事選についての世論調査では、象徴的な結果が生じた。4年前、タイムスと朝日新聞による世論調査では、投票で重視する問題として1位が経済活性化(49%)、2位が基地問題(36%)だったのが、今回は逆転して、1位が基地問題(40%)、2位が経済活性化(29%)となったのである。
  沖縄をさして「軍事植民地」という言葉を用いたのは、植民地問題の研究者で東大総長を務めた矢内原忠雄だった。戦後まだ10年、訪沖した頃のことである。もちろん沖縄は米軍統治下だった。
  その後、沖縄は日本に復帰し、すでに42年がたつ。しかし、今もなお日本政府公認の「軍事植民地」状態に置かれている。
  もうこれ以上、忍従を続けることはできない。その思い、積もりに積もった怒りが、今回の対立軸の転換を生んだのである。

 ひるがえって、日本の政治状況はどうか。先の見えないスモッグ状態の中で、昨年末の特定秘密保護法案の強行採決、今年7月1日の集団的自衛権承認の閣議決定と、安倍政権は軍事力強化路線を突き進んでいる。国会の外では護憲、反原発を叫ぶ運動が燃えさかっているが、国会内には容易に響かない。
  冷戦時代、政治的対立の構図は保守(資本主義)対革新(社会主義)だった。しかし1990年の冷戦構造の崩壊によって、この対立の構図も消滅した。国際的にはアメリカの一極支配となったが、日本国内では政治は混迷状態に陥り、明確な政治理念と政治課題をかかげての対立の構図は定まらないままにきた。
  現在の政党名を見ても、自民党、民主党、共産党、社民党の従来型の党を除くと、維新の党、次世代の党、みんなの党、生活の党と、政治的理念・課題を示した党名は見当たらない。
  しかし、今の日本が抱える問題は多い。ざっと見ても、原発問題、石油・エネルギー問題、農業(食糧自給率)問題、温暖化・気候変動、大災害対策、森林保全問題、少子高齢化問題、年金問題、医療費問題、拡大する格差、子育て・女性の雇用問題、農山村過疎化問題…と挙げればきりがない。
  以上の問題を見ると、前半が環境問題、後半が福祉の問題だということが見て取れる。であるならば、どうして自らの政治理念・課題として「環境・福祉」を正面に掲げ、かつ党名にもそれを明示した政党が現われないのだろうか。
  全国で保守対革新の対立の構図が最後まで残った沖縄も、今回の知事選でついにその対立軸を移した。今日直面する最大の問題を対立軸とする政治本来の構図へと転換した。
  この沖縄の動向に、日本全体の政治も注目してほしい。従来の保革の枠を突き破って、当面の最大の政治課題を対立軸に立てた沖縄の今知事選に学んで、めざす政治理念・課題を高く掲げ、その実現に向けて奮闘する一大対抗勢力が出現したとき、日本の政治もこのスモッグ状態を突き抜けることができるはずだ。


 このページの先頭へ