梅田正己/編集者/米国、海兵隊グアム移転費、さらに増額要求――この国はどこまでなめられるのか 12/03/16

 

米国、海兵隊グアム移転費、さらに増額要求――この国はどこまでなめられるのか

梅田  正己 (書籍編集者)

 沖縄海兵隊のグアム移転をめぐって、3月13日から日米の外務・防衛審議官級協議がワシントンで始まった。そこで米側は移転費の日本負担分の増額を打診してきたという(朝日新聞、3月15日付)。⇒PDF
  「やっぱり来たか」
  直ぐにそう思ったのは、これまでの日本側の対応からそれが十分予想できたからだ。

■米側が日本の負担増要求

 沖縄の基地負担軽減を理由に、在沖海兵隊8千人をグアムに移転させる、そのための施設やインフラ建設の費用は日本側が59%(61億ドル)、米側が41%(42億ドル)を分担することが、06年の米軍再編のロードマップで合意された。

 ところが米側が議会の反対で自国の分を負担することができなくなった。つまり約束が果たせなくなった。普通ならそこで、契約は破棄され、白紙に戻されるだろう。

 しかし米側は、グアムへ移す人数を4700人に減らし、予定通り移転計画を実施することとし、日本政府を了承させた。日本側はこれが、普天間基地の辺野古移設とのパッケージを解いてのグアム移転先行実施だとして、契約違反を指摘するどころか、むしろ喜んで
受け入れた。

 新たに提示された4700人という数字は、先日この欄で私が書いたように、当初の計画8千人のちょうど59%に当たる。つまり、日本側の分担比率に正確に対応する数に減らした数字である。

 あわせて、8千人から4700を引いた残りの3300人はオーストラリアやフィリピンなどにローテーションで派遣することにした。これで沖縄からは合計8千人が撤退するのだから、約束どおり61億ドルを負担してもらいたい、というのが米側の主張だ。

 いかにも虫のいい言い分だ。しかしこれに対し、日本政府側から何かを言ったという報道はない。だいたい、国民に対して何で4700人になったかの説明すらない。残念ながら、これが日米関係の現状だ。

 一方、先月の大統領の予算教書で今後10年間で40兆円もの予算削減を命じられた国防総省に、グアム移転にまわす予算はどこをつついても出てこない。
とすれば、4700人の移転を歓迎してくれた日本政府をもう少し揺すれば何とかなるのではないか――と、そう考えたろうことは容易に想像がつく。
そのさいの「交渉材料」は、すでに合意済みの嘉手納以南の牧港補給基地など5施設である。

■海兵隊グアム移転の本当の理由

 在沖海兵隊8千人のグアム移転と普天間の辺野古移設はパッケージだとしきりに言われてきた。しかしこの二つの出所は明らかに異なる。

 普天間基地の辺野古沿岸移設は1995年の少女暴行事件の直ぐ後から始まり、それが日本との米軍再編に組み込まれて、最終的に06年5月、再編実施のためのロードマップに合意、滑走路2本をV字型に配置することとなった。あわせて、辺野古移設を条件に在沖海兵隊8千人をグアムへ移転することが決まった。

 ところがそのわずか2カ月後、06年7月、米太平洋軍は「グアム統合軍事開発計画案」を発表した。もちろん何年も前から準備したものだ。
そして2年後の08年4月、米海軍省は「グアム統合マスタープラン素案の概要」を発表。翌09年11月、「環境影響評価案(ドラフト)」をインターネットで公開した。(以上、吉田健正『沖縄の海兵隊はグアムへ行く』高文研、参照)

 この経過を見れば、米軍のグアム統合計画は米太平洋軍独自の戦略設計から立案されたものであることがわかる。
  在沖海兵隊8千人のグアム移転も、米軍の戦略にもとづいて決められたのだ。
それを「普天間」と結びつけることによって、日本からグアムでの新たな施設、インフラ建設資金の6割を出させることにしたのである。

 環境影響評価案は10年2月に住民の意見が締め切られ、同年7月、最終案(ファイナル)が作成され、インターネットで公表されている。Final Environment Impact Statement GUAM AND CNMI と入力すれば、誰でも見ることができる。(最後のCNMIは、グアムの北隣、テニアンなど北マリアナ諸島自治領のこと)

 この環境影響評価書の序章に、米軍がなぜグアムを太平洋のハブ基地に選定したか、その理由が9項目、簡潔に示されている。はじめの4項目だけを挙げると――
  第一は、グアムが、米本土と太平洋の米国領土を守るポジションにあること。
  第二に、タイムリーに反撃可能な範囲内に位置していること。
  第三に、地域の安定、平穏、安全を保持できること(つまり集会やデモ、人間の鎖、長期の座り込みなどにわずらわされないですむ)。
  第四に、地域的な脅威に対して柔軟に対応できること。

 つまり、今や中国から東南アジア、中東をのぞむ戦略ポイントとして、また沖縄などよりはるかに自由に使える場所として、米太平洋軍が選定したのがグアムだったのである。

 それなのにわが日本政府は、そうした米国側の事情には目をつむり、空前の財政危機を背負いながら米国の基地建設費用の分担を引き受けた。
その上さらに、米側はその費用の増額を要求してきているという。
  いつまでなめられるのだろうか、この国は。