梅田正己/編集者/原発をどうするか、 「プロの政治家に任せろ」だって?!11/07/08

 

原発をどうするか、
「プロの政治家に任せろ」だって?!

 

梅田  正己 (書籍編集者)

 

 

 今回の原発事故の問題で、われわれをうんざりさせ、絶望させたのは、放射能問題もさることながら、日本の政治家の劣化、惨状である。
  かつて、経済は一流、政治は三流、と欧米メディアに揶揄されたことがあったが、今や五流か六流、いや採点不能の状態にまで低落してしまっているのではないか。

 ところが、その信用失墜した政治家に、原発問題は任せるべきだ、という意見が「朝日新聞」7月6日付けに登場した。
  かつて民主党の代表をつとめ、今も有力な代表候補である前原誠司衆院議員の主張である。

 掲載されたのは、全一ページに近い紙面を使った「争論」のページ。
  テーマは「原発を国民投票で問う」。
  討論の相手は「みんなで決めよう『原発』国民投票」の会の事務局長、ジャーナリストの今井一(はじめ)氏である。

 今井氏はこう主張する。
  「来年3月にも実施したい。すでに『原発』国民投票法の市民案は出来上がっています」
  「スイス、フランスの国民投票も取材しました。調べたら、世界中でこれまでに1100件以上、行なわれています。でも日本では一度もありません。民主主義国として異常でしょう」
  「脱原発か原発容認かは、憲法9条を変えるか変えないかに匹敵する、この国の未来を左右する問題です。国会や政府、一部の政党や政治家、官僚が決めていいことではありません。主権者である国民が自ら選択すべきです」

 今井氏は、「脱原発か原発容認かは、憲法9条を変えるか変えないかに匹敵する」大問題だと言っている。
  これが大前提である。こんな大問題であるからこそ、国民投票で、国民一人一人が自分の意思を表明し、その結果にもとづいて国としての方針を決定すべきだというのだ。

 ところがこれに対し、前原氏はこう主張する。
  「日本は間接民主主義の国です。主権者である国民が意思表示をするのは、衆院選か参院選で一票を投じることです」
  「国民が選んだ議員が議会を構成し、国民の代弁者として法律や予算を議論し、決定する。原発の今後についても、プロフェッショナルたる政治家が知恵をしぼり、判断し、しっかりと国民に説明する」
  「判断の是非は、次の国政選挙で国民の審判を受ける。そういう制度ですし、政治家はその気概でことに当たるべきです」

 前原氏には、2つの確固たる信念があるようだ。
  一つは、国民の政治参加は基本的に選挙での投票に限られること。
  もう一つは、政治はすべてプロフェッショナルたる政治家に任せるべき、ということだ。

 「プロフェッショナルな政治家」という語が記事の中では2ヵ所に出てくる。
  前原氏にはどうも、今の政治の状況に対する国民多数の絶望的心境がわかっていないようだ。
  わかっていれば、「プロフェッショナル」などという言葉を口にできるはずはない。

 みなさんは、選挙の際に投票所に足を運ぶだけでよい。
  政治は、われわれプロに任せなさい。
  この半世紀、そういうやり方でやってきた結果が今日の惨状を招いたのではなかったのか?

 最後にもう一つ、前原氏の原発問題に対する「認識」の問題がある。
  氏は、プロの政治家でなければ政治はできない例として、国会で臓器移植の問題に取り組んだ際の経験を持ち出している。
  臓器移植問題がきわめて価値判断の困難な問題であることは、誰も否定しない。
だが、原発の問題は、これからのわれわれの生活の仕方、文明のあり方の根幹にかかわる、いわば人類史的問題だ。
  日本国がどういう道を選択するかは、世界中の人々の命運にもかかわる。だからこそ、全世界が日本の今後の行動を見守っている。

 しかし前原氏は、原発の問題は、臓器移植の問題と同レベルの問題であるという認識を、はしなくも示した。
  その程度の認識であれば、今井氏が「脱原発か原発容認かは、憲法9条を変えるか変えないかに匹敵する、この国の未来を左右する問題です」と語っている、その意味もわからなかったし、だからこそ国民投票を、というその主張も理解できなかったのだろう。
  ちなみに、前原氏は「民主党憲法調査会長」である。         (了)